ギターの弦の張力を測定した結果とその解説(アコギ・エレキ)

張力のかかったギターのイメージメンテナンス

ギターの弦の張力を測定して、その結果と力のはたらき方を解説しました。

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1.気になる力 |張力

ギターの張力の通説

ギターのメンテナンスをしていると、どうしても気になることが多いのが「弦の張力」です。

張力の大きさは昔からアコギで70kgほど、エレキで40kgほどと言われていますが、きちんとした測定結果というのはほとんど目にすることがありません。

今回はそんな弦の張力を実際に測定し、ギターと張力の関係についてなるべく分かりやすく解説しました。

※この記事は筆者の物理学・ギターの知識と記事内の検証内容をもとに書かれています。

2.弦の張力の測定結果

ギターの張力の測定結果(アコギ・エレキ)

今回測定したアコギとエレキの弦の張力を表にまとめました。

計算の結果、予想される張力の大きさはアコースティックギターでおよそ72~76kg、エレキギターでおよそ43~46kgほどです。

どちらの張力も一般的な説よりもやや大きいことが分かります。

エレキギターの弦は2弦の張力が下がっていますが、これはクラシックギターなどでも見られる傾向です。

※レギュラーチューニングでの測定です。表中の言葉の意味はこの後解説しています。

2-1 ギターの張力は何で決まるのか

ギターの張力は主に弦長、ゲージ、弦のメーカー(弦の重さ)、ピッチの4つのバランスによって決まります。

①弦長(スケール)

弦長(スケール)についての説明図

ギターのナットからサドルまでの長さのこと。スケールとも呼ばれます。

ギターによって少しずつ違いがあるのですが、アコギの場合はボディの大きさに合わせて弦長が決まっていることが多く、エレキギターではメーカーによる違いや型番による違いがあります。弦長が長くなると張力が大きくなります。

②ゲージ(太さ)

アコギとエレキの一般的なゲージ

弦の太さのこと。インチという単位で表記され、よく6本セットで「ライトゲージ」「ミディアムゲージ」などと呼ばれます。オーソドックスなのはライトゲージで、一般に弦が太くなるほど張力は大きくなります。

③線密度(重さ)

弦の長さと重さ

1mあたりの弦の重さのこと。弦が重たいほど張力は大きくなり、メーカーによって弦の材料は少しずつ違うので、同じゲージでもメーカーごとに張力が違います。

④ピッチ(周波数)

レギュラーチューニングのピッチと周波数

音の高さのこと。一般的なチューニングはレギュラーチューニングと呼ばれ、音が高くなるほど周波数と張力が大きくなります。(上の図の音名はピアノの一番低いCをC1としています。)

2-2 今回測定した弦

測定に使用した弦

今回はネック調整中に切れてしまったアコギ用のエリクサー弦と、6年以上お蔵入りしていたエレキ用の替え弦(アーニーボールとヒストリー)を使って測定しました。

「厳密な測定環境」とは呼べないものの、数値としてはそれなりに正確な値かと思います。

アコギの弦
Elixir(Nanoweb, Phosphor Bronze)
ゲージ:12-53(Light)
備考:2週間ほど使用。コーティング弦。
商品のリンク: Amazon / サウンドハウス

エレキの弦
1~3弦-History(Normalグレード)
4~6弦-Ernie Ball
ゲージ:いずれも10-46(Light)
備考:新品。目に見えるサビや劣化なし。
商品のリンク: Amazon / サウンドハウス

※エレキ弦のリンクは共にErnie Ballのもの。

3.ギターと張力の解説

ギターとネックにはたらく張力について簡単に解説しています。

3-1 張力(kg)ってどんな力?

一般的な張力(N)とギターの張力(kg)の違い

張力はよく「テンション」とも呼ばれ、その名の通り「弦が引っ張る力」のこと。

張力は本来「ニュートン(N)」という単位で表すのですが、ギターの世界では一般的にイメージのしやすい質量(kg)が使われます。

そのため、ギターに使われている「張力⚪︎kg」という言葉は『弦の張力の大きさを「地球上での物の重さ(重力)」に置き換えるとすると⚪︎(kg)の物にはたらく重力と同じですよ』という意味です。

厳密に書くと、張力を重力加速度で割った値が広く使われています。

3-2 ギターにはたらく張力

ネック内にはたらく張力

ギターと弦がピッタリ平行な場合、ギターにかかる「横向きの力(張力)」はネックを押しつぶすようにしてネックの内側にはたらきます。

木材はこうした力のかかり方にはとても強いので、これだけでネックなどが変形する(縮む)ことはほとんどありません。

ネックの反りと張力の変化

ただし、一度ネックが反ったり元起きしたりすると、横向きの張力が「ネックを反らせる方向」にはたらき始め、反りが悪化するほどその力は大きくなっていきます。

よく、ネック調整は定期的にした方が良いと言われるのはこのためです。

ヘッドとブリッジにかかる張力の向き

実はギターのヘッド(巻取り部分)にかかる張力はやや下向きになるように作られていることが多いのですが、アコギのブリッジなどは張力によって常に上向きに引っ張られています。

古くなったアコギがとくに「ブリッジ浮き」「トップ浮き」を起こしやすいのはこのためです。

3-3 ネックを変形させる回転力

ギターを変形させる回転力

ギターと弦が完全に平行な場合でも、ネックとギターには張力によって生まれる「回転力」と呼ばれる力がはたらいています。

これはその名の通り「物を回転させようとする力」で、ギターの場合は両端が起きあがろうとする方向、つまりネックが順反りする方向に向かってはたらきます。

そのため、どれだけネックの調整をしても、ネックには必ず「曲げようとする力」がはたらいています。

この回転力は「弦高が低いほど」弱くなるので、とくに古いギターやネックの弱ったギターなどでは「サドルやナットの高さを少し低くする」ことでネックへの負担を軽減してあげても良いかもしれません。

※弦高を下げると音質も変わります。回転力は高校物理では「力のモーメント」(てこの原理)として習います。

4.今回の測定と計算の方法

弦の張力の計算式

ギターの弦の張力は上の式で求めることができます。

張力を直接測定することはとても難しいため、今回はギターのピッチ(周波数)、スケール(弦の長さ)を仮定して弦の線密度(1mあたりの重さ)を測定することで張力を計算しました。

この式で求められる張力は単位がニュートン(N)なので、今回は重力加速度(9.80665)で割って質量(kg)に換算しています。

※「ニュートン」とは物を加速させる「力」の大きさのこと。見慣れない「ρ」という記号は「ロー」と読みます。

測定の様子

今回は弦のボールエンド部分をカットして50cmピッタリ(誤差0.2%未満)に切り揃えて測定しました。


替え弦袋

今回張力の測定に踏み切ることができたのは、ネックの調整中に「ほとんど新品」のエリクサー弦が切れてしまったため。

エレキギターの弦は新品なのでもったいないのですが、もう何年も開く機会すらなかった“替え弦袋”から状態のいいものを選んで測定しました。

この記事がギターのメンテナンスや素朴な疑問の解決のために、お役に立てていましたら幸いです。

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