マンションのベランダに保水性を持たせる挑戦をしたお話です。
1.夏のベランダと打ち水

夏の日のマンション、せっかくの打ち水はそのほとんどが排水溝へと流れていき、5分もすればベランダはいつもの乾いた姿へ。
そんな水捌けのいいベランダでも打ち水は暑さを和らげてくれますが、だからこそ猛暑日には「撒いた水がもっと長持ちしてくれれば、、」と思ってしまいます。
かといって、間に合わせのバスタオルやダンボールなどをベランダに敷くのはなんとなく抵抗感があり、実際に虫や菌が沸いてしまわないかも心配です。
今回はそんなベランダに保水性を持たせるべくDIYに挑戦したお話と、その測定結果をまとめました。
※打ち水の方法や仕組みについては以前「部屋が暑い原因と涼しくする方法 |熱と科学のお話」という記事の中でまとめているので、よければそちらをご覧ください。
2.今回筆者が作ったもの

今回筆者が作ったのはこちら。
見た目は「穀物野菜を乾燥させている農家さん」といった雰囲気ですが、水色のネットの中には保水力と通気性に優れた「植物栽培用の小石」が詰まっています。
そして、驚くべきは見た目に反する保水力と冷却効果。
保水時間は最高気温37℃の猛暑日で10時間ほど。室外機の直風を受けながら、台座下の気温は水をかけて7時間後でも外気温-5℃という筆者の予想を遥かに上回る結果になりました。
詳しい検証の様子は改めて記事後半でご紹介するとして、ここからは順番に制作の過程をお話ししていきますね。
3.ベランダの保水手段
ベランダに保水力をもたせる方法として、制作前に考えたり調べたりしていたものを簡単にまとめました。
3-1 保水タイル

保水タイルというのはその名の通り保水力を持ったタイルのこと。
特許の関係なのか、今のところ便器のメーカーとしてお馴染みのTOTOが手掛ける「バーセア」という商品シリーズでしか販売されていないようです。
バーセアはベランダに設置できるジョイントマットのようなタイルで、保水タイプのお値段は10枚セットで1万円ほど。
今回のDIYでは仕様や効果、価格を1つの基準・参考にさせていただきました。
3-2 土・石

土や石はとても優れた保水能力を持っていて、今回筆者が目指したのも「地面のようなベランダ」でした。
ただし自然物である土や石は種類ごとに特徴が大きく異なり、場合によっては虫が湧いてしまうことも。
また、大きな囲い枠などを作るのは木材の風化や、制作、掃除、土の管理・回収の大変さ、ベランダ自体への影響などを考えるとあまりおすすめできません。
浅くて大型のプランターや園芸用のネットなどは意外と安く手に入るので、もしも土を使う場合はこの二つを活用するのが良さそうです。
土の種類や今回の制作工程などについてはこの後ご紹介しますね。
3-3 水

思い切って「トレーやベランダ自体に水が貯まるようにしてしまう」という方法はあまりおすすめできません。
長期間水を張っていれば蚊などが卵を産みにやってきたり、時間が経つほど不衛生になってしまう可能性が高いからです。
また、頑丈そうに見えるベランダの床も、ずっと水に沈められれば劣化を早めてしまう場合があります。
かといって、「ベランダに水槽をたくさん置いてアクアリウムを楽しむ」というのは元々飼育が好きな人でもなかなか大変だと思うので、水を直接貯めるという方法は避けた方が良いかもしれません。
3-4 植木鉢

ベランダでのガーデニングは園芸がお好きな方にならぜひおすすめしたい方法。
グリーンカーテンなどの巨大なものまで作らないとしても、土の保水力に加えて、植物の作る影、植物自体のもつ水分も気温を下げてくれます。
小まめに面倒を見てあげられそうな方はぜひ検討してみてください。
ただ、栄養の豊富な土や水受け皿ではコバエや蚊などの虫が湧くこともあるので、そうした対策も合わせて学んでおくことをおすすめします。
※何年も前に筆者がお世話になっていた小さな飲食店では、頂きものの観葉植物の鉢から百匹単位のコバエが発生して大変な目に遭いました。
3-5 その他

他にもホームセンターを歩きながらバスタオルやスポンジ、ダンボール、珪藻土マットなどなど使えそうなものを考えていたのですが、衛生面や虫の心配、心理的な抵抗感、価格的な理由から筆者はどれも断念しました。
※バスマットに使われる珪藻土マットは優秀な素材ですが、思っていたよりかなり重たく、大きさに対する値段もバーセアより少し高いくらい。そして裏面が室内仕様なのでベランダで使うには色々と問題がありそうです。
4.保水パネル作りの工程
ここからは、実際に筆者が保水パネルを作ったときのお話です。
4-1 材料と土の種類

今回用意したのは、
ハイドロボール1.2L 110円×10
鉢底土ネット10枚 301円×3
猫よけマット大 195円×3
猫よけマット小3枚 140円×1
で、費用の合計は2,728円。
実は園芸用ネットを1袋(10枚)丸々余らせてしまったので、実費は2,427円です。
また、家にバケツやいらないペットボトルがあると少し制作が楽になります。
①ハイドロボール

ハイドロボールというのは園芸の「水耕栽培」に使われる小石のこと。保水性に加えて、栄養分を含まず虫などがつきにくいという特徴があります。筆者が使ったのは粒が大きくて安いダイソーのもので、1袋の重さは568gでした。(1.2Lで110円は調べた中ではとても安い)
※参考用。値段や粒の大きさなどからしても今回の用途ではダイソー品が良さそうです。
②鉢底土ネット

鉢底土ネットは植木鉢の底に敷く石と土を分けるための園芸用ネット。キッチン用の水切りネットなどと比べると頑丈で目が細かく、伸縮もしないので2mmくらいの粒ならこぼれることはなさそうです。
ネットのサイズは23.5×30cm。
③猫よけマット

猫よけマットはホームセンターで見かけて一目惚れで購入したもの。水切り台としてとても理想的な形をしています。
柔らかい素材なので切って捨てられるのも◎。
※似た形と値段のものばかりですが、通販だとセット販売が多いようです。筆者が実店舗で購入したのはLIFELEX(コーナン)のもの。
土の種類と特徴

主要な土の種類と特徴を簡単にまとめました。
培養土(★☆☆☆☆)
園芸などで使われる植物栽培に最適な土。自然の土に近く栄養が豊富で、水をかけると溶けるように流れてしまうこと、なんの対策もしなければ確実に虫が湧くことなどから今回のような用途には不向き。
軽石(★★☆☆☆)
園芸などで使われる軽くて穴だらけの石。保水性、排水性、通気性ともに期待できるものの、園芸用の軽石は風で吹き飛ばされないか心配になるほど軽いため、今回のような用途には不向き。
※排水性:水をかけた時に水溜りのようにならず、サラサラと水を通り抜けさせる力
赤玉土(★★★☆☆)
園芸などで使われる粒状の土。とにかく安くて、栄養をあまり含まず適度な保水性と排水性、通気性がある優れもの。ただし、赤玉土は「赤土」と呼ばれる細かい土が固まったもので、通常1〜2年で風化して勝手に崩れてしまうのが難点。また土自体が弱酸性のため、酸性雨のようにゆっくりとコンクリートを侵食してしまう可能性がある。焼き固められた種類もある。
ハイドロボール(★★★★★)

ハイドロカルチャー(水耕栽培)で使うための穴だらけの小石。適度な吸水性と排水性があり、通気性も良い。栄養分をほとんど含まないため菌などが増えにくく、虫がつく可能性も低い。適度に重く、弱アルカリ性のものはコンクリートを侵食しにくい。
※水耕栽培ではハイドロコーンという商品やダイソーのハイドロボールが有名なようで、園芸やアクアリウムなどをされる方々の検証によると少なくともこの二種類は弱アルカリ性とのこと。
4-2 制作の作業工程
実際の作業工程を簡単にまとめました。
①使い捨て軽量カップ作り

まずは大きめのペットボトルを切り開いて計量カップの水を移し、油性ペンで印をつけて即席の「使い捨て計量カップ」を作ります。(なくても良い)
②袋に詰める

使い捨て計量カップでハイドロボールを測ってネットに入れていきます。当初600mlで考えていましたが、入れてみると900ml(写真左下)がしっくりきたのでそちらに変更。
袋の端は折り返してホッチキスで簡単に留めておきます。
③軽く洗う

開封したハイドロボールをバケツで洗ってみると少し泥が残ったので、ネットに詰め終わったハイドロボールは軽く水につけて洗うことに。
ちなみに虫などは一切混ざっておらず、ほとんどの粒は水に浮きました。
④並べる

あとはネットに入ったハイドロボールをベランダに並べて完成。
別の日に朝から意気揚々と保水効果の検証をしたところ、、、

なんと打ち水から8時間経ってもハイドロボールは全て湿っていて、一部のハイドロボール下はまだまだ濡れているという事態に。
この日は最高気温35.6℃の猛暑日。
これでは朝夕2回の打ち水で「夏の間中コンクリートを水没した状態」にすることになりかねません。
流石にDIYの範囲を超えてしまうと思った筆者は、排水の方法を探します。
検証の様子(写真のみ・一部文字入り)






⑤水切り台の設置(完成)

水浸しの状態が5時間を超えたのを見た筆者は大きなプランターを買うためにホームセンターへ。そこで偶然見つけたのが水切りに理想的な形をした「猫よけマット」でした。

こうして今回の「水切り台付きハイドロボールパネル」が完成することに。
後は保水と排水のバランスが取れていることを願うばかりです。
5.保水量の測定実験

翌日、再検証も兼ねてハイドロボールの正確な保水量を調べてみることに。
室外機の影響を受けにくいベランダの手前に小さな水切り台とハイドロボールを置いて、1時間置きに重さを量っていきます。
この日は前日以上に天気のいい日で、最高気温は37.1℃、日中は湿度50%台のカラッとした猛暑日になりました。
測定中のベランダやハイドロボールの様子は簡単な解説付きで折りたたんでいますので、お好みに合わせてご覧ください。
測定の様子

8:00 (気温30.4℃ 保水量0g)
検証に使うのは1日以上濡らさずにおいたハイドロボール。自然に乾いたこの状態を「保水量0g」とします。

9:00 (気温32.0℃ 保水量76g)
たっぷりの水でベランダを濡らして実験開始。重さは軽く水を切ってから計測しています。

10:00 (気温33.2℃ 保水量57g)
ベランダはすっかり乾いてカラカラに。水切り台の下は「湿っている」程度。排水はうまくいっているようです。

11:00 (気温34.4℃ 保水量42g)
昼前の日差しが計測中のハイドロボールを焼く様子。水切り台をめくっていると水が滲み出てきました。

12:00 (気温35.3℃ 保水量32g)
筆者宅のベランダが日陰になり始める時間。保水量はまだ残り40%ほど。ハイドロボールの保水能力は単体でもとても優秀なようです。

13:00 (気温36.4℃ 保水量23g)
水切り台の下はまだ少し湿った状態。夏は同階宅の打ち水が代わる代わる流れてきて、ずっと側溝が濡れています(余談)

14:00 (気温36.7℃ 保水量15g)
ハイドロボールの水は残り大さじ1杯分に。

15:00 (気温35.9℃ 保水量10g)
水切り台の下のコンクリートに触れてみるととても冷たかったたため、温度計を置いてみることに。(仕組みから言えば当たり前なのですが、水道水よりはるかに冷たく感じました。)

16:00 (気温35.5℃ 保水量7g)
水切り台下の温度計は33.2℃。この時ハイドロボール真上の気温は38.8℃。吸水から7時間、室外機の熱風を受け続けていたことを考えれば外気温-5℃はすごいことかもしれません。

17:00 (気温35.3℃ 保水量4g)
夕立が来て、10分ほど前から晴れ間の雷と土砂降りに。サンシェードのおかげでベランダには霧吹き程度の水もかかりませんが、計測中のハイドロボールには慌てて傘を用意しました。重さは無事に3g減って412g。

18:00 (気温30.6℃ 保水量2g)
雨はすっかり上がって再び降る気配もなく、即席の傘は撤去。体感湿度はずいぶん上がりました。

19:00 (気温30.3℃ 保水量1g)
外はもう薄暗く、保水量も残りわずか1g。水を撒き直して計測終了です。
6.実験の結果

今回の測定結果をグラフにまとめてみました。
朝に水をかけたハイドロボールが水を保持してくれた時間はなんと10時間。
途中降った激しい夕立の影響が心配でしたが、グラフの形から見るとほとんど濡れずに済んだようです。

また、初日に8時間たっても濡れていた水切り台の下は開始1時間で「湿っている程度」にまで乾いていて、猫よけマットによる排水もうまく機能してくれていました。
水切りをしても朝から夕方まで保水できるハイドロボールには「さすが」の一言。
よく「植物の水やりは朝と夕方がよく、(地面への)打ち水もそのタイミングが良い」と言われますが、ハイドロボールは本当に「地面の代用」になり得そうです。

ちなみに、その気化熱による冷却効果はというと、開始7時間後の計測で水切り台下の気温が外気温-5℃という結果に。
見た目はややカッコ悪くても、一度の水撒きでこれだけ継続してベランダを冷やしてくれるのであればこんなにありがたいことはありません。

体感的なお話では、窓から感じる放射熱が格段に減ったことに加えて、「エアコンの冷房設定が日中28℃、深夜なら29℃の最弱風でもしっかり効く」ようになりました。
例年、猛暑日には27℃設定で風量も1段上げないとエアコンが効かなかった筆者宅からするととても嬉しいことです。
もしベランダの一部分だけでなく外壁丸ごと保水素材の「洞窟のような家」をDIYできたなら、きっと夏場のクーラーなんていらなくなるのでしょう。
ともあれ、今回は制作中にあれこれ工夫して汗も流し、久しぶりの土いじりや実験などなど、個人的に終始とても楽しめた工作でした。
この度は筆者の挑戦に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。