ケルト音楽とは |物語の世界に通じる文化は実在したのか調べたお話

ケルトの伝統楽器フィドルと物語のイメージその他 |著作権・DIYなど

物語の世界へと誘われるような現代ケルト音楽について、その発祥や実在した文化を探ったお話です。

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プロローグ 〜ケルト音楽〜

ゲームや映画などに出て来るような、まるで物語の街並みに入り込んだような感覚になれる民族音楽が好きだという方は多いと思います。

筆者田村もその一人で、ある日そんな民族音楽を調べていて出会ったのが「ケルト音楽」と呼ばれる音楽ジャンルです。蓋を開けてみるとそれはまさに思い描いていたような幻想的な音楽ばかりが広がる世界でした。

そこで生まれた疑問が、「この音楽たちはどうやって生まれてきたんだろう」というもの。もしもまるで物語のような「ケルト」という地域が昔存在していて、そこに暮らす人々の生活や文化の中で生まれた音楽なのであれば夢が広がりますよね。

今回はそんなケルト音楽の発祥について調べたことを、筆者なりに色々な考察も交えながらお話ししていこうかと思います。

1.ケルト音楽という言葉

ケルト音楽という用語と物語のイメージ

知らない用語を調べたり、知識の取っ掛かりを得る上でとても頼りになるサイトの一つにWikipediaがあります。

そのWikipedeiaによるとケルト音楽とは「レコード会社、音楽メディア、ジャーナリズムなどによって、伝統音楽をベースとする『商業音楽や民族風の現代音楽など』幅広い音楽を総称する音楽用語である」と記されています。(出典:Wikipedia「ケルト音楽」)

これを読んだ時、筆者は少し夢を壊されたような悲しい気持ちになりました。ケルト音楽というのは民族や物語の世界をイメージして商売のために作られた「ルーツのない架空の音楽」なのでしょうか。

ですが色々なサイトを巡っていると、どうやら「ケルト」と呼称される地域や人々は確かに実在したようなのです。

2.ケルトの指し示す意味と場所

実際にケルトと呼ばれている地域を世界地図で確認してみると、ケルト文化地域には今のアイルランド、スコットランド、マン島、ウェールズ、ブルターニュ、コーンウォール、ガリシアなどが含まれるそうです。

※紀元前の昔にはこの地図より遥かに広い地域にケルト文化が存在しています。

さらに調べていくと、「ケルト」というのは日本の「アイヌ民族」「琉球民族」「大和民族」などのようにまとまった民族を表す単語ではなく、用いた言葉や文化の系統のみを表す言葉だそうです。つまり、特定地域に存在した文化をケルトと呼び、その地域をケルト文化地域、そこに暮らした人々をケルト系の人などと呼ぶのです。少しややこしいですね。

そして先ほどの話を合わせると狭義にはその一帯、特にアイルランドやスコットランドから発信される「現代に作られた民族風音楽」を「ケルト音楽」と呼ぶようです。(参考文献:ケルトの笛屋さん「そもそもケルトって何?」Acua Piece「ケルト文化圏とは」)

3.ケルト文化圏の伝統音楽

ケルトの伝統楽器フィドルと物語のイメージ

さて、「ケルト音楽」が本当にただ現代人の想像だけから生まれた民族音楽なのであれば、そのケルト文化における実際の伝統音楽とはどんなものだったのでしょうか。

もちろん一言で伝統音楽と言ってもそこには軍隊の行進曲から美しい民謡まで様々なものが存在するのですが、色々なジャンルの伝統音楽を聴いていくと、どうやらアイルランドの伝統舞踊「jig(ジグ)」に根付いた舞踊曲と、同じくアイルランドの緩やかなバラード笛曲「air(エアー)」の2つが今のケルト音楽に与えた影響は大きそうです。

3-1 ケルトの舞踊音楽 “jig”

例えばこちら、おそらく日本でも比較的知る人の多い楽曲である「the kesh jig」はどうでしょう。

残念なことに作曲者や年代についての記述はあまり見当たらなかったのですが、元々はアイルランドの伝統舞踊曲であり、1900年代後半、「ボシーバンド」によるバンド形態でのCDカバーをきっかけにセッション曲などとして周辺国で再び人気となった曲だそうです。(参考文献:ブラックバードミュージック「どうしてKesh Jigなのか」)

多少の違いはあっても、メロディやリズムは「ケルト音楽」にどことなく通じるものを感じますね。(もちろん原義的にはこちらこそがケルト音楽なのですが…)

3-2 ケルトのバラード音楽 “air”

続いて全く雰囲気が異なるのがこちらのair。アイルランド周辺の地域には元々和音伴奏の習慣がなかったそうで、はるか昔、地域の人々は笛や歌などで演奏するメロディから素朴な音楽を奏でていたそうです。(参考文献:Acua Piece「ケルト音楽とは?」)

中でも特にairと呼ばれている音楽は、笛を用いたバラード調の独奏曲を指す言葉です。

「ケルト音楽」を聴いていると笛による演奏には穏やかな伴奏が存在することが多いですが、airは独奏であってもケルト圏の伝統音楽として、その雰囲気と魅力をしっかりと持っています。

こういったイメージに近いケルトの音楽はyoutubeだと「ケルト音楽」よりも「celtic music」で調べるとよく出てきます。ただしどの曲もリズムには統一された流れがあって美しい伴奏もつけられ、こうした曲がもしもairの流れを汲んでいるのであれば確かに現代風に発展してきた形跡が感じられますね。

4.ケルト音楽のもつリズムとダンス

ケルトの伝統舞踊jigと物語のイメージ

さて、とくにゲーム音楽などとしてイメージされる明るい曲調の「ケルト音楽」の多くにはリズムとして「3拍」を基調とするという大きな共通点があります。

これはおそらく先ほど少しだけ紹介させていただいたアイルランドの伝統舞踊「jig」が大きく関係しています。また、4拍子のケルト音楽は全くの創作なのかといえば、そうでもないようです。

4-1 “3”のリズムを持つjigダンス

調べてみるとこちらのjig、そもそも6/8拍子もしくは9/8拍子の音楽を元に踊るケルト地域の伝統的な踊りの形式(もしくはその舞踊曲)を指すそうで、このjig曲のほとんどはかなり「ケルト音楽」と曲調の近いものです。(参考文献:Wikipedia「ジグ(音楽)」)

jigは元々貴族や王族というよりは庶民に根ざした文化で、演奏されているのが情緒あるパブ(人々の集う公衆の酒場)というのもまた良いですね。

4-2 “4”のリズムを持つリバーダンス

また、こちらのリバーダンスというのはそういった伝統的なアイリッシュダンスから更に柔軟に発展した、神話や伝承を表現するミュージカルのような舞台舞踊です。(参考文献:Wikipedia「リバーダンス」)

楽曲演奏が始まるのは01:20からなのですが、前半もアイリッシュダンスの魅力が非常によく伝わる動画です。

このリバーダンスのころになると、それまで3のリズムで統一されていたケルトの舞踊音楽に「4拍子」を基調にしたリズムが取り入れられます。

もしかするとこうした「物語と踊りと音楽」の舞台こそが、ケルト音楽がだんだんと幻想的な世界を表現するようになっていくきっかけになったのかもしれません。

(おまけ)アイリッシュダンスとタップダンスとフラメンコ

アイリッシュダンスの様子を見ていて、筆者は同じく足を踏み鳴らして踊るタップダンスやフラメンコを思い出しました。

ダンサーの方の書かれた記事によると、タップダンスはアメリカの黒人文化に由来するもので、音楽から体の使い方、使われるシューズにいたるまでやはり違いがあるとのことでした。(参考文献:タップダンスの友「タップダンスとアイリッシュダンスの違い」)

ですが、元々アメリカの開拓期にはイギリス、スペインなどをはじめとする多くのヨーロッパの人々がアメリカの地に移住していますので、文化的に一切関係ないということはなさそうです。実際に後のアメリカではタップダンスとアイリッシュダンスによるダンスバトルなども行われていたようで、発祥はともかく、jigのようなアイリッシュダンスがタップダンスの発展に寄与した面は大きそうです。(参考文献:Wikipedia「タップダンス」)

一方でフラメンコとアイリッシュダンスはメロディや音楽の雰囲気こそ全く違いますが、リズムや抑揚、体の動きには元々共通点が多く、後のリバーダンスには明確にフラメンコの要素も取り入れられたそうです。

地域的にみてもスペイン北部のガリシア地方はケルト圏に含まれるそうで、スペイン南部で発達したフラメンコとアイリッシュダンスには互いに文化的な交流や影響があったのかもしれません。

5.ケルト音楽に使われる伝統楽器とメロディ

ケルトの伝統楽器ティンホイッスルと物語のイメージ

さて、音楽を考える上でリズムと同じくらいとても大切なのが使われる楽器とメロディの特徴です。

「ケルト音楽」には色々な楽器が登場しますが、主旋律、つまりメロディのパートはバイオリンや笛、明るい音の弦楽器などが担当していることがとても多いですよね。

これらのほとんどが、実はそのままケルトの伝統楽器となります。

5-1 ケルトの伝統楽器

ケルト圏の発祥/伝統とされている楽器にはティンホイッスル(小さな縦笛)、フィドル(バイオリン)、バグパイプ、ケルトハープ、ギターなどがあるそうで、その音色は聞いていくと1つ1つがどこか物語の音楽の中で聴いたことのあるものばかり。

上の動画では左からコントラバス、バイオリン1、バウロン(こちらもケルト伝統の打楽器)、バイオリン2、ギター、アコーディオン(古くはコンサティーナと呼ばれる楽器が使われていたそう)、イリアンパイプス(バグパイプの一種)が使われています。

今の「ケルト音楽」を聴いていても、こうした伝統の楽器、もしくはそれに近い音色を奏でる楽器を基調にして演奏されたものが非常に多いです。

伝統楽器に関してはこちら(Acua Piece「ケルト音楽とは?―使われる楽器・歌と音楽の特徴―」)の記事が非常にわかりやすいので、ここで紹介していないものも含めたケルトの楽器1つ1つをもっと知りたい方はぜひ読んでみてください。

5-2 ケルト音楽のメロディと音階

音階(スケール)と物語のイメージ

ケルト音楽といえば分かりやすく親しみやすい印象の曲が多いですが、これに非常に大きく関係しているのがメロディやコードに使われている「音階」です。

例えば日本でも沖縄の音楽などはかなり独特の印象を受けますが、実は沖縄の音楽は「ドレミファソラシド」(7音階)から「レ」と「ラ」を除いた「ドミファソシド」(5音階/琉球音階)だけで演奏されるという特徴があり、これが曲の印象にかなり強く影響しています。(琉球音階を適当に弾けばどこか沖縄っぽさを感じるほど)

同じようにケルトの音楽では「ファ」と「シ」をあまり使わない「ドレミソラ」(5音音階)の音を多く使って曲が作られているそうです。

この「ケルトの5音音階」については諸説あるようなのですが、実際に「kesh jig」などの音を拾ってみると確かにほとんどが「ドレミソラ」で演奏されていて、たまに登場する「ファ」は一瞬で通り過ぎる音に使われています。

ただしケルトの音楽は完全に5音音階だけで演奏されているわけではなく、曲によって音の使用頻度も異なることから、ケルトでこの音階が伝統とされていたというより「今に残り人気のある曲にこの音階がよく使われていた」という方が正確かもしれません。

ちなみにこの「ドレミソラ」という5つの音は日本では「ヨナ抜き音階」(演歌などに多用される)、ロックでは「メジャーペンタトニック」(ロック系のギターソロで多用される)と呼ばれ、実は日本に暮らす人も普段から色んなところで耳にしているものです。

※今回は割愛しますが、現代のケルト音楽はDドリアンスケール(ゲーム音楽でもよく使われる音の並び)が使われていることも多いようです。(kesh jigなどは該当しません。)筆者自身詳しいわけではないのですが、非常に幻想的な響き方をすることで有名なスケールなので作曲などされる方はよければまた調べてみてください。

6.ケルト音楽は伝統音楽なのか

さて、ケルト地域の音楽について色々と見てきましたが、現代の音楽ジャンルの一つとしての「ケルト音楽」はそれなりにしっかりとケルト地域の伝統や文化を汲み取っとた音楽だと言えそうではないでしょうか。

少なくとも、「商業音楽」「民族風の曲ならどれも含む」などと言われて悲しい気持ちになる必要などは全くない、きちんとしたルーツのある音楽ジャンルの一つだと筆者には思えます。

ケルト音楽は世界の中に広がって今も物語や創作の世界で発展を続けているので、確かに厳密な意味でケルトの伝統音楽とは呼べないのかもしれません。使われる楽器は増え、メロディも変わり、バラード曲にも伴奏があります。また、イメージだけで作曲して命名する方もいる以上、きっと全く別の民族音楽がケルト音楽と呼ばれてしまうこともあるのでしょう。

ですが、アイルランドやイングランドなどの周辺地域には確かに現代的なケルト音楽のルーツと呼べるような伝統と音楽文化があり、その側にはそれを奏でた人々の生活がありました。

今では物語の世界そのもののようなイメージを持つ「ケルト音楽」は、ケルト地域の舞台や踊りと共に、ある時からは世界の映画やゲームと共に、少しずつ発展してきた音楽群なのかもしれません。

「ケルト音楽」がどれくらい現代風になったものなのかを知りたい方は、よければyoutubeで「japanese traditional music」と調べてみてください。一部中国文化や西洋文化なども混ざった「世界から見た今風の日本伝統曲」を聴くことができます。

それでは長くなりましたが、今日は最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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