フレットのすり合わせってどうにか自分でする方法はないの?そのときの予算、デメリット、注意点は?
これって意外と気になっている方も多いと思います。
ギターにとっては音の命とも言えるほど大切なフレットを自分で調整するとなるとかなり勇気がいりますよね。
今回は田村がメインで使っているアコギのフレットを実際に自分ですり合わせたときの作業工程やギターの状態について、ポイントごとになるべくたくさんの写真を使いながら詳しくお伝えします。
1.自分ですり合わせるってどんな作業?
実際にフレットをすり合わせる作業に入る前に、まずは「すり合わせを自分で行う」ということについて大まかに知っておきましょう。
今回は初めに
①フレットのすり合わせと部分交換とは?
②すり合わせ作業の流れ
③自分ですり合わせるリスクとデメリット
という3つの内容について簡単にご紹介します。
実際に田村が行った作業工程やそのときの様子、何が難しいかなどについては記事後半で詳しく説明していきますね。
1-1 フレットのすり合わせ・全交換・部分交換とは?

フレットのすり合わせとはすり減って高さがバラバラになってしまったギターのフレットを全体的に削り「低い方に合わせて」均一に調整すること。
つまり、凸凹になったフレットが平らになるまでヤスリをかけるリペアのことです。
フレットは消耗品ですし、高さが不揃いだと音詰まりやビビリの原因にもなるので、すり合わせはネック調整に次いでよく行われるリペアです。
さて、ところで皆さんは自分のギターに必要なのが「すり合わせ」「全交換」「部分交換」のうちどれなのか判断できますか?
とくに部分交換とすり合わせの判断はフレットの寿命に大きく関係してくる大切なことなので、曖昧だという方は後からでも「ギターフレットの交換とすり合わせの違いから料金・時期まで」という記事を読んでみてほしいです。
1-2 すり合わせの手順や作業内容は?

フレットをすり合わせるときの1番基本の作業は、長方形で平らなヤスリを使ってフレットを均一に削ること。
この作業のことを「レベリング」といいます。
フレットのすり合わせといえばこのレベリングがイメージされがちですが、実は
・ネック調整
・マスキング
・面取り用のマーキング
・フレットの角を丸く削る
・フレットの磨き上げ
などの作業も「すり合わせ」に含まれるので意外とやることは多いです。
詳しい内容は後で実際の様子を通して紹介しますが、まずここではすり合わせについての言葉の意味や手順を大まかに見ておきましょう。
①ネック調整
ギターのネックを反りがなく真っ直ぐな状態にする作業。
これをしておかないとフレットの高さが揃わず均一にすり合わせることが出来ません。
②マスキング

フレットに鉄粉や傷が付くのを防ぐために専用のテープを指板に貼って保護する作業。
マスキングをしっかりしておかないと鉄粉が指板に残って中々とれません。
③面取り用のマーキング

フレットの上面をマジックペンで塗り、どこを削ってどこが削れていないかの目印にする作業。
すり合わせではフレットの1番深い凹みの中の黒色も消えれば作業完了。
フレットの角を削る時には逆にマジックペンを消さないようにします。
④レベリング(すり合わせ)

フレットの凸凹がなくなり均一になるまでヤスリで削る作業。
滑らかに仕上げるために5〜6種類のヤスリを使うのが一般的ですが、種類と役割りについては「道具編」で後ほど紹介しますね。
⑤フレットの角を削り丸くする

すり合わせによっててっぺんが削れ、四角っぽい形になったフレットの角を丸く削りなおすための作業。
実はすり合わせの中で1番丁寧さが必要かもしれません。
⑥磨き上げ(仕上げ)

非常に細かい研磨が出来るクロスでフレットをピカピカに磨いていく作業。
滑らかな弾き心地にするためにとても大切です。
こんな風にダイジェストで書いてしまうと「意外と簡単そう!」と思ってしまいますが、どれも丁寧さと集中力が必要な作業です。
ただ、田村もそうなんですが工作などが好きな人にとってはとても楽しい作業だと思いますので、趣味としてジャンクギターなどで一度経験しておくのも良いかもしれません。
1-3 自分ですり合わせるリスク・デメリット
さて、出鼻を挫くようですが「自分でフレットをすり合わせてみたい!」という方にきちんと知っておいてほしいのが、素人がフレット調整をすることのリスクについてです。
というのも、フレットはほんの0.1mmくらいの高低差で弦のビビリや音詰まりに繋がる繊細なものだから。
最悪の場合、すり合わせの前よりもギターの状態が悪化するなんていうことも平気で起こるようなリペアなんです。
田村はどちらかと言えば皆さんの大切なギターにはリペア工房でのリペアをおすすめしたいので、すり合わせを自分ですることによる主なリスクやデメリットを簡単にだけ知っておいてください。
①ビビり、音詰まりが直らない・悪化する
まず、1番辛いのがリペアによってギターの不調が直らない、もしくは悪化してしまう場合。
フレットを均一に削れないと、ギターとして弾けないようなギターになってしまう危険があります。
②弾きご心地が悪くなる
インターネット上の「すり合わせ体験談」を読んでいるとよく見かけるのが「フレットと弦がギシギシきしむようになってしまった」というもの。
これはフレットの表面を十分に磨けていないと起こるんですが、こうなるとチョーキングや押弦のたびにかなり気になってしまいます。
③フレットを必要以上に削ってしまう
すり合わせでフレットを削る幅は「1番深い溝とぴったり同じ」が理想です。
ところがリペアマンさんが言うには、初心者の人がすり合わせをすると「どうしても必要以上に削りすぎてしまうことが多い」そうです。
つまり、これはフレット交換までのフレットの寿命を大きく縮めてしまう危険があるということです。
いかがでしょうか。
すり合わせ自体は好きな人には楽しい作業ですが、ギターにとっては大きなリスクと隣り合わせでもあります。
今回田村は運良く成功しましたし、なるべくノウハウもお伝えしますが、皆さんのギターのためにぜひ慎重に判断してください。
2.すり合わせの作業時間は?
田村がすり合わせ作業にかかった時間はおよそ5時間ほど。
途中休憩したり、説明用の写真を撮ったりしているので実際には4時間半くらいかもしれません。
こう書いてしまうと「長いなあ」と感じる方もいると思いますが、実際に素人がフレットをすり合わせるときは慎重すぎるくらい、ゆっくりすぎるくらいがちょうどいいと思いますよ。
3.自分ですり合わせたフレットの仕上がり

フレットの凹みや音のビビりが解消されて演奏性も問題なく、正直とても満足しています。
フレットの削り幅も本当にぴったり最低限くらいで留められました。
ただ、実を言うと弦を張ったときにはチョーキングにわずかな「ギシギシ感」があってヒヤッとさせられたんです。
これは3〜5分くらい色々なフレットでチョーキングをしているとすぐに嘘みたいに綺麗になくなったので良かったですが、田村自身「磨き上げ作業」はとくに丁寧にしたつもりだったので皆さんも気をつけてくださいね。
※この「ギシギシ」に関してはすり合わせ後にしっかりと対策も考えたので、道具編、作業編の中でお話しします。
それではここからはいよいよ具体的な道具と作業の説明に入っていきましょう。
4.すり合わせに必要な道具と今回使った道具
さて、それでは実際にギターをすり合わせるために必要になる道具はいくつくらいあって、どんな風に使うものなんでしょうか。
まず先に言ってしまうと、すり合わせの道具を一式揃えるのにかかる値段は
・正式なリペア道具…6000円
・田村が使った道具…2000円
くらいです。
ちなみにここで言う「正式な」というのは単にメーカーさんが専用に開発して発売しているというだけの話なので、実際には少し使い勝手が良く便利というだけです。
では早速、その種類や選び方などを順番に見ていきましょう。
4-1 すり合わせ専用の道具
実は「すり合わせ専用」として売り出せれているリペア用工具は大きく分ければたったの2種類だけ。
田村はどちらも使っていませんが参考までに特徴と値段、何で代用したかを紹介しておきますね。
フレットレベラー(レベリングファイル)
フレットの高さを均一に整えるために使う専用のヤスリのこと。
レベリングは均一にする、ファイルはヤスリを意味する言葉なのでそのままですね。
田村は紙やすり(耐水ペーパー)と木のブロックを代用として使いましたが「木の板で正確にまっすぐなヤスリを作る」のは難しいので、そういう意味では重宝するかもしれません。
値段は1500〜2000円ほどです。
※フレットレベラーを買ったとしてもその後ブロックと耐水ペーパーによる磨き上げは必要です。
フレットファイル
すり合わせで出来たフレットの「角」を削って丸くするための細長いヤスリのこと。
こちらはシンプルに「フレットヤスリ」という意味ですね。
田村はこれも耐水ペーパーを定規に貼り付けることで代用して作業しました。
フレットファイルは何本セットのものを買うかによりますが、1本だとやはり後から耐水ペーパーで磨く必要があります。
値段は500〜3000円と幅が広いので予算の計算では2500円としておきますね。
その他この後紹介する道具も含めると合計金額はおよそ6000円くらいでしょう。
※フレットレベラー、フレットファイルを揃えた場合、田村が使った道具のうち「320番手の紙やすり(80円)」は絶対に省略できます。
4-2 実際すり合わせに使った道具
田村が今回実際に使った工具は、
・紙やすり(耐水ペーパー)5種類
・マスキングテープ
・フレット磨き用クロス
・木のブロック
・100均の定規
・100均の油性ペン
の6点。
全部で2000円もしない安さと、全てホームセンターで揃ってしまうという手軽さが良いですね。
実は田村は元から持っていたものを除けば今回1000円も使っていません。
※フレット磨き用のクロスと木のブロックはもともと持っていたものですが、予算では買ったときの値段で計算しています。
※定規や油性ペンなどはすでに持っている方も多いのでぜひ節約してください。
紙やすり(耐水ペーパー)

フレットを削ったり磨いたりする作業に使う紙製のヤスリのこと。
基本は木の板や鉄のブロックなど硬くてまっすぐな長方形のものに貼り付けて使います。
テープで貼っても良いんですが、実際に作業してみると「元から裏側が両面テープになったもの」の方が便利そうだと感じたので参考までに。
ちなみに紙やすりには「番手」と呼ばれる数字が振られていて、数が小さいほど目が荒く削る能力が高くなり、数が大きいほどきめ細かく磨くような削れ方になっていきます。
例えば、フレットすり合わせの場合には最低でも300、600、1000、1500、2000番の5種類は用意しておくと良いでしょう。
※300番でついた大きな傷を、いきなり削る能力の低い1000番で消すのはとても大変なため
田村は削る用(フレットレベラー・フレットファイルの役割)に320番、そこから段々傷を小さくしながら磨いていくために600、1000、1500、2000番の紙やすりを使いました。
各ヤスリの削れ具合は実際の作業編で細かく説明します。
紙やすりの値段は番手によって1枚50〜100円と安く、5枚で合計420円ほど。
※通販の場合セット販売が多く、少し割高になってしまうので出来ればホームセンターに行くのが良いと思います。リンクはセット内容と値段が理想に近いと思ったものです。
マスキングテープ

指板をすり合わせの鉄粉や傷から保護(マスキング)するためのテープのこと。
粘着力が弱く、貼り付けたものの塗装を痛めたりベタベタにしたりしないように工夫された養生・保護専用のテープです。
1フレットの幅より少し広いものを1本、最終フレットの幅より少し狭いものを1本用意しておくのがおすすめです。
※田村は広いタイプ1本でおこなってしまったので狭いフレットはテープを縦に割く手間が必要でした。
ちなみに写真下にわずかに写っている「オレンジ色のマスキングテープ」は塗装用で撥水加工がされているので値段が高いです。
すり合わせに使うには高いだけでもったいないので、他に使い道がなければ白いタイプを選びましょう。
値段は40円〜100円くらいで、田村が買ったのは18mm幅(80円)でした。
※マスキングテープも通販だとなかなか探すのが難しいです。リンクは12mm〜で好きな幅を選んで買えるタイプです。
フレット磨き用クロス

フレットを仕上げてピカピカにするためのクロスのこと。
フレットの錆を落とすためにも使われる道具です。
液体タイプや、そのほかの貴金属磨きなどが家にあればそれで構いません。
専用のクロス・液体タイプ共にフレットのサビ落としにも使え、1000円ほど。
※リンクは田村が使ったものと全く同じものです。
木のブロック

紙やすりを貼り付けるための硬いブロックのこと。
底が平らで長方形のブロック状であれば木でも金属でも構いません。
(金属は正確に平らな場合が多いですが高いです)
田村は防音室自作の際に出た柱材の木切れ(厳密には少し反っている)を使いました。
値段は柱材自体が200円くらいなのでそれ以下で手に入ると思いますが、一応200円で計算しておきます。
100均の定規
すり合わせ中に酷いミスがないか確認したり、フレットの角を削るヤスリ(フレットファイルの役割)を作るために紙やすりを貼り付けて使ったもの。
jis規格のものや金属製が勧められていることもありますが、割れたり欠けたりしていなければ機能的には100均のものでも十分です。
強いて言うなら、ネックの反りを目視でうまく判断できない方は50cm〜1mくらいの金属定規を持っておくと便利でしょう。
100均の油性ペン
フレットの面取りでどこを削ってどこが削れていないのかをはっきりさせるために使うマジックペン。
面取り用のマーキングはフレットすり合わせで本当に大切な作業なので、油性のものを必ず1本用意しておきましょう。
高級ペンである必要は全くありません。
中々これだけの説明ではイメージできない部分もあると思いますが、あとは実際の作業に合わせて解説していきますね。
4-3 あった方が良かった道具

これはこの後の作業編でも少し触れていますが、実際の作業を通して「硬めのスポンジ」を用意しておけば良かったなと思ったので参考にしてください。
すり合わせの最後の仕上げとしてフレットを磨き上げるとき、スポンジにヤスリや金属磨き用クロスをつけて使うと楽で綺麗に仕上がります。
田村はすり合わせが終わってからですが、写真の下側に写っている「ただの硬めのスポンジ」をホームセンターで買って、今後のフレットの錆び落とし作業用にしました。
値段は160円ほどなので、例えば油性ペンと定規をすでに持っている方は1つ買ってもお釣りが来ますよ。
5.フレットすり合わせの作業工程
さて、それではいよいよ実際にフレットをすり合わせたときの作業工程を見ていきます。
すり合わせ中はなるべく写真をたくさん撮るようにしたので、作業の様子は大まかに「前半」「後半」2本の記事に分けて載せておきますね。
田村自身も自分でのすり合わせは初めてだったので、「もっとこうしたら良かったかな?」と思ったことやコツ、ポイントなどもなるべく漏らさずお伝えしていきます。
5-1 ネック調整(下準備)

まずはすり合わせの準備としてギターのネックを「弦を外した状態でまっすぐ」に調整します。
弦を外して真横からチェックした時に真っ直ぐか、フレットのきれいな部分に定規を当てて隙間ができないかなどをチェックしましょう。
ネックは「弦を張った状態でわずかに順反り」に調整されていることも多いです。
少し順反り(逆反り)している場合は丸一日くらい弦を外したままで置いておくとトラスロッドなしで真っ直ぐに戻ることもありますよ。
※詳しくは「トラスロッドはNG?ネックの反りの原因と確認・調整の方法」という記事をご覧ください。
5-2 作業前半 |準備〜レベリング

・作業場所作り
・マスキング
・面取り用のマーキング
・ヤスリ準備
・レベリング
作業前半の記事ではすり合わせの準備からレベリングまでの様子をまとめています。
準備はとても簡単なんですが、本題のレベリングは初めてなこともあって楽しさ半分、怖さ半分でスリルがありました。
レベリング後に紹介しているフレットの磨き上げは、後から振り返ると作業後半でする最後の磨き上げと役割が重なってしまうので、後で一緒にしてしまうのがいいかもしれません。
※該当箇所は赤枠で囲ってあるのですぐに分かります。
・すり合わせ作業の様子① |準備〜レベリングまで
5-3 作業後半 |フレットの角削り〜仕上げ

・面取り用のマーキング(2回目)
・小ヤスリ準備
・フレットの角を丸く
・仕上げ
・弦を張ってチェック
作業後半の記事ではレベリング後のフレットの角を落とし、磨きながら仕上げていく様子をまとめています。
田村はチェックの際に数分間だけギシギシ感が残ってしまいましたが、これは磨き上げ作業に「硬質のスポンジ」を使えば改善できると思います。
※とても軽度のギシギシだったので、数回ずつチョーキングすることで綺麗に消えました。
6.これからフレットを自分ですり合わせる方へ
さて、フレットすり合わせの手順や方法、コツ、注意点などいろいろなことを紹介しましたが、なんとなく作業のイメージは伝わったでしょうか。
実は、今回田村が自分でのリペアに踏み切ったのは、
・すでにリペアマンさんに数回すり合わせてもらっていて次はどちらにしてもフレット交換になるギターであったこと
・純粋に工作や加工などの作業が好きなこと
・リペアを自分でこなしてみたいという好奇心
・お金に余裕がなく出来れば節約したかった
という理由が重なっていたから。とくに「ダメ元で失敗してもフレット交換してもらえばいい」と思える状況だったのは大きいです。
今回田村はたまたま上手くいきましたが、メインのギターをすり合わせるのは楽しい反面本当に怖かったですし、正直あまり人におすすめしたいものでもありません。
ですが、「それでもやってみたい!」という方はきっといると思いますし、この記事がそんな方のお役に立てれば幸いです。
工作がお好きな方にとっては作業自体はとても楽しいと思うので、もしも「趣味としてリペアもやってみたいけど怖い」という方は安くて買えるジャンクギター(数百円〜数千円)などで練習してみてはいかがでしょうか。
ただ、くれぐれも無理して大切なギターを傷めてしまわないようにだけ気をつけてくださいね。