ギターには湿気も乾燥もあまり良くないと言われていますが、一体ギターにどんな変化や影響があるのかはご存知ですか?
また、保管の時はどれくらいの湿度がちょうど良くて、どうやってその環境を作れば良いのでしょう。
昔田村自身もそうであったように、ギターの状態や音と湿度の関係はあまりよく知らない方が多いように思います。
今回は季節ごとの湿気や乾燥がギターに与える影響から、保管のとき最適な湿度を調整・維持する方法までをご紹介します。
1.木材と湿度
まずはギターの材料である木材について、3つだけ知って欲しいポイントがあります。
ギターに起こる湿度変化とも直結する部分なので少々お付き合い下さい。
1-1 木は呼吸する
木材を扱う方はよく「木は呼吸をする」という表現をします。
まるで生き物のような言い方ですが、実はこれはまだ生えている木ではなくて、切られた後の建築材やギター材を指す言葉です。
なぜこんな表現をするかというと、木材は実際の呼吸のように「周りにある湿気を吸い込んだり吐き出したりする」から。
またそれだけではなく、木材は湿度が変化するとその形や重さまで変わることが知られています。
1-2.湿気が多いと膨らむ
木は周りの湿気を吸い込むと、そのぶん膨らんで大きく重くなります。
これは人が息を吸い込むイメージをすると分かりやすいですね。
1-3.乾燥すると縮む
乾燥して吸い込んでいた湿気を吐き出すと、木は小さく軽くなります。
そして乾燥しすぎると縮みきれずにひび割れてしまうことも。
これはギターの材も例外ではないので注意が必要です。
2.ギターの状態と湿度の影響
日本では四季の影響で季節ごとに湿度や気温が大きく変化しますよね。
これは実はギターにとっては過酷なことだと言えます。
とくに夏秋は梅雨による湿気、春冬は乾燥に注意が必要ですが、そもそも湿度が変わるとギターにはどんな変化や影響があるのでしょうか。
2-1 ギターの形が変わる
実は湿度が変わればネック、ボディなどに少しずつ形の変化が見られます。
とは言え、普通はかなり気にして見なければ気付かない程度の変形です。
それでもこの変形が積み重なると、最悪ひび割れやフレット浮きなどのトラブルにつながる可能性があります。
とくにネックは湿度の変化によって大きく反ってしまうこともあるので、これについては後で詳しく説明しますね。
2-2.ギターの音が変わる
湿度が変わるとギターのボディ鳴りは大きく変わります。
木材が呼吸して重さが変わる、つまり、ボディの振動板の重さが変わることになるので、実はこれはギターにとって当然の話なんです。
どんな風に音が変わるのかは後で一緒に見ていきましょう。
2-3 パーツの錆びやすさは同じ?
ギターの弦やパーツの金属部分は、たしかに湿度が高く、湿気が多いほど錆びやすい傾向にあります。
しかし、錆びの本来の原因から考えれば湿度はほぼ無関係と言えるレベルなので、あまり気にしすぎなくても良いでしょう。
錆びの原因や対策が気になっている方は「ギターの弦の錆びによる影響とその防止対策」という記事も合わせてどうぞ。
3.ギターが乾燥すると?
では実際に湿度が低く、乾燥する冬から初春にギターに起こる変化を見てみましょう。
ギターに大きなトラブルが起こりやすいのは湿気よりもこの「乾燥」の方なので要注意です。
3-1 フレットがはみ出る
そんなバカなと思うかもしれませんが、ある程度以上ギターが乾燥してしまうとネックの木が縮んでフレットの金属が少し外に出っ張ってきます。
あくまで少しです。
演奏性にはあまり関係しませんが、状態チェックの目安の1つとして覚えておきましょう。
これはどちらかというとビンテージギターや古いギターの方が起こりやすいように思います。
3-2 音が乾き高くなる
湿度が低いとギターの木は乾燥するので、重さも軽くなります。
するとボディ板が細かく振動しやすくなり、低音が減って高音が増えたシャキッっとした音がします。
とくにアコギを弾く方の場合はこの乾いた音が好きだという方もいますが、「普段より音が明るいな、音のツヤが減っているな」と感じたら、ギターが乾燥しているサインです。
もし乾いた音が気に入ったなら、今より少し軽い木材で出来たギターや、一回り小さなボディのギターを検討してもいいかもしれません。
3-3 ボディの丸みとひび割れ
少し分かりにくいですが、一見すると平面に見えるボディの表裏の板は、実は微妙に丸みを帯びています。
湿度が下がりギターが乾燥してくると、木が縮むことでこの丸みも減って平らになっていきます。これはマズイです。
ボディの乾燥は進みすぎるとボディの表面にひび割れを作ってしまう場合がありますので十分に気を付けて下さい。
(弦の張力による表板の「浮き」にも気をつけて下さい。)
4.湿気が多い時のギター
反対に湿度が高く、湿気が多い夏から初秋のギターの状態を見ていきましょう。
雨が続く梅雨などはどうしてもギターが湿気を溜め込んでしまいがちです。
ただ、こちらはギターに深刻なダメージを与えることは少ないので安心して下さい。
(乾燥との繰り返しは良くないので注意)
4-1 フレットが引っ込む
冬場、細くなったネックからはみ出していたフレットの金属は、今度は逆に少しネックの内側に引っ込んでいきます。
こちらもあくまで少しです。
これは、木材が湿気を吸収して膨らむのが原因。
湿度の目安の1つとして覚えておきましょう。
4-2 音が重く低くなる
これは一年もギターを弾いている人なら、誰でも経験があるのではないでしょうか。
例えば、雨の日に「なんとなく音がこもって聞こえる」という現象。
覚えはないですか?
実はその原因の1つが、ギターのボディが湿気を吸い込んで重くなることです。
湿気を吸ったボディは重たく、細かい振動をしにくくなるので、低い音が強く高い音の少ない出音になります。
特にアコギは特有のジャキッとしたブライト感が出にくくなってしまうので、湿気と雨の日を嫌うアコギギタリストは多いものです。
4-3 湿気は木には良い ?
木はもともと中に沢山の水を含んでいて、切って加工するときには長い時間乾燥させる必要があります。
そのことからも分かるように、木や木材にとってはある程度以上、湿度が高い方が「自然な状態」だと言えます。
表面が濡れてくるような環境は良くないですが、湿気が少し高いのは木にとって良いことなんです。
それでもこの時起こるネックの変形はプレイヤーにもギターにも良くないのでやはり注意が必要です。
5.ネックの反りと湿度の関係
ギターの湿度変化では実はこのネックの反りが1番身近で厄介かもしれません。
木材は膨らんだら縮んだりするという話をしてきましたが、実はその膨らみ方や縮み方は木の部分によって変わってきます。
そうするとギターに何が起こるかというと「ネックの反り」もしくは「ねじれ」などです。
そのネックに使われた木の個性によって順反りになることも逆反りになることもありますが、木の硬さの関係で湿度が高いと順反り、乾燥していると逆反りという方が多いでしょう。(ほぼ反らない人もいます)
例えば田村の使っているアコギは、雨の日や湿度が高い日にはやや順反りする癖のあるギターです。
雨の日のネック調整
ネックの調整を自分でやっているという方は少し気を付けて欲しいのですが、極端に乾燥した日や、かなり湿気が多い日にネックが反ったときには、1日くらい安定した湿度に戻して様子をみて下さい。
と言うのも、もしもネックの反りが湿度のせいだった場合には、湿度変化と反りのイタチごっこになってしまうから。
例えば、雨の日に少し順反りした田村のギターをその日のうちにフラットに調整すると、晴れた日には少し逆反りすることになってしまいますよね。
これではあまりきちんとした調整になりません。
特に雨でギターケースやギター本体が濡れてしまった場合、ネックの反りが出やすいので、焦らずに少し様子を見てみましょう。
ギターの反りについての対応は「トラスロッドはNG?ネックの反りの原因と確認・調整の方法」という記事で詳しく紹介しています。
また、雨の日の持ち運びでギターを濡らしてしまうという方は出来れば「雨の日のギターの運び方と防水対策 |濡れたときの対処法まで」の内容も知っておいて欲しいです。
6.ギターに最適な湿度の目安は?
いよいよギターに最適な湿度についてです。
昔田村がお世話になっていたギターリペア工房やメーカーさんに、「ギターにとってはどれくらいの湿度がちょうど良いんですか?」と聞いてみたところ、どの方も「50〜60%」という回答でした。
「意外と高いな」と思われるかもしれませんが、実は普段私たちが「ちょうど良い、過ごしやすい」と感じる湿度もこれくらいだそうです。
逆に言えば、人が快適に暮らせる湿度ならおおよそギターの保管にも適しているということなんですね。
7.ギターの湿度調整と保管の方法
ではギターの湿度を一定に調整して、湿気や乾燥から守るためにはどうすれば良いのでしょうか。
いくつか例を挙げて調整の方法を見ていきましょう。
7-1 部屋の湿度を調整する
例えば部屋の中でギタースタンドにギターを立てておく場合。
こんな時は部屋の湿度がある程度以上に保たれるように気を付けて下さい。
特に冬場は加湿器を置いて調整するなどした方が良いでしょう。
夏も、湿気がこもりすぎないように意識的に換気を行なった方が良いです。
ギターに良い環境は人にいい環境でもあるので、健康的になって一石二鳥ですよ。
7-2 ギターケースにしまう
同じ部屋の中であっても、ギターケースがあるのと無いのでは大違いです。
例えソフトケースであっても、ギターをケースにしまうことで空気の乾燥や湿気からかなりギターを守ってくれます。
またケースはホコリや傷を防ぐ役割も果たしてくれるので、部屋の湿度管理が難しい時は毎回ケースにしまう癖を付けると良いでしょう。
この時、湿度調整剤と呼ばれるものをケースに入れておくと、さらに湿度を安定させることが出来ます。
7-3 長期保管には湿度調整剤を
あまりギターを弾く頻度が高くない、もしくは倉庫などにギターをしまう必要がある場合には、ギターケースの中に湿度調整剤を入れておく必要があります。
この湿度調整剤は湿気が多すぎる時は余分な湿気を吸い取り、湿気が少なすぎる時はためていた湿気を吐きだすことで湿度を一定に保つ優れもの。
楽器屋さんに行けばサウンドホールに入れるタイプや、乾燥剤のようにケースに詰めておくタイプなど色々な種類が置いてあるので、1つ持っておきましょう。
値段は1000円程のものです。
間違ってもケース無しで生身のまま倉庫に放り投げるなんてことはしないで下さいね。
また長期保管の場合は「ギター保管で弦を緩めるメリットとデメリット」という記事もお役に立てるかもしれません。
7-4 それでも不安な時は
これだけやってみて、「でもやっぱり不安だ、もっとちゃんと数字で知りたい」という方は小さな湿度計をギタースタンドの近くか、ケースの中に入れておきましょう。
こうすればいつでも目視で湿度の状態を調整できるので、音のコンディションなども調節しやすいでしょう。
・ギターの木は呼吸する
・乾燥には要注意
・湿度で音が変わる
・湿度でネックが反る
・湿度は50〜60%が良い
・湿度の調整方法
ひとまず今回はこの6点を理解出来たか確認してみましょう。
色々と書きましたが、ギターは人が住みやすい環境であればあまり大きく傷むことはほぼ
ないです。
なので、出来ればギターはケースにしまって普段生活している部屋の中に置いてやって下さい。
過度な乾燥や湿気にさえ気をつけていれば、少し乾いた日の軽い音や、少し湿った日の重い音もまた面白いですよ。