楽器屋さんには、本当にたくさんの種類のピックが置いてあって、誰もが「一体どれを選んだら良いの?」と考えたことがあると思います。
「ピックなんて上手くなればどれも一緒だから見た目の好みで選べば良い」
「硬いピックの方が表現力が高く、上達も早い」
そんな声も聞かれますが、田村にとってのピックは選ぶべき大切な「楽器の一部」です。
素材や形が違えば、当然出てくる音は変わります。
そして、1つのピックで沢山の表現ができることと、1つのピックを盲信していることは全く別の話です。
これからギターを始めようという方
今の演奏をもっと追求するためにピックを見直す方
ぜひ自分の演奏スタイルにあったピックの選び方を学んでいってください。
1.ピックとは
ピックはギターを演奏する際に使う小さな三角形の道具のこと。
冒頭でも書いたように、ピックはギターを弾く上で「楽器の一部」もしくは「体の一部」と考えても良いほどに大きな役割を果たします。
ピックが違えば、まるで演奏者やギターが違うかのように鮮やかに弦の音色は変化するものです。
今回はそんなピックについて、
・種類(形)
・厚さ
・素材、材料
・選び方
・ライブ、練習、場合別おすすめピック
・おまけ:硬いピックは万能?
の順に見ていきましょう。
2.ピックとアタック音(予備知識)
ピックのことについて説明する上で、どうしてもこれだけは知っておいて欲しいのが「アタック音」という言葉。
アタック音は弦とピックがぶつかることで出る音のことで、弦を弾いたときにコードなら「ジャッ」「チャッ」、単音なら「ピコピコ」「ポコポコ」「キチキチ」といった風に聞こえます。
このアタック音については説明しだすと本当に奥が深いのですが、今は簡単に「打撃音」だと思って下さい。
ドアをノックすれば「コンコン」という音が出るように、弦をピックで弾けば「弦とピックの衝突音」が鳴るわけで、それこそが「アタック音」です。
3.ピックの種類(形)
ピックの種類には形によって大きく3通りの名前があります。
細身の三角形をした「ティアドロップ」
正三角形に近い「トライアングル(おにぎり)」
指に固定して使う「フィンガーピック」
それぞれの特徴について見ていきましょう。
3-1 ティアドロップ型
ティアドロップピックは、その形が涙(ティア)の粒(ドロップ)のように見えることから名付けられたもの。
名前も見た目もスタイリッシュな印象を受けます。
ティアドロップ最大の特徴は尖った形をしていて弦に接する面が狭いこと。
もちろん豊かなアタック音を出すことも可能ですが、どちらかというと実音重視の演奏やソロに向いています。
また、指との接触面も狭いので、指の間でピックが柔軟に動く状態を作りやすいです。
ちょっとした角度調整やアタックの変化はトライアングルよりティアドロップの方が表現しやすいでしょう。
そしてギターソロ、特に早弾きの場合、トライアングルよりも切り返しの小回りが利きます。
しかし、逆にピックの操作に慣れないうちは「ズレやすい」「アタック音が出しにくい」といった欠点もあります。
トライアングルピックと比べると、やや扱いが難しいかもしれません。
※「ジャズピック」と呼ばれるティアドロップをさらに小ぶりに、シャープにしたピックがありますが基本的な音の性質はティアドロップと同じです。
強いて言うなら単音の強弱のコントロールが少しやりやすい印象がありますが、小さくなるほどにコードバッキングの発音は難しくなります。
3-2 トライアングル(おにぎり)型
日本では俗称の「おにぎりピック」という名前もよく聞きます。
形は正三角形に近いデザインで、ティアドロップと比較すると大きくずんぐりとした見た目です。
トライアングルピックの特徴は平べったく弦に接する面が広いこと。
その最大の利点として、とても豊かなアタック音が出せます。
そして指との接触面が大きく、ピック握ったときにしっかりとした安定感があります。
トライアングルピックはアコギのコード弾きや、カッティングフレーズなどでよりアタック感を出したいときにはもってこいのピックです。
しかし、早弾きやソロの際はティアドロップに比べて指と手首の柔軟さが求められます。
ティアドロップと比較して最終的にどちらが優れているかは「曲と演奏スタイル」次第ですが、少なくとも初めの頃は扱いやすいピックと言えるでしょう。
3-3 フィンガーピック
フィンガーピックは指に装着して使うピックで、更にサムピック、アラスカピックなど様々な種類があるんですが、通常のコード弾きではまず使いません。
フィンガーピックについては、通常のピックと全くの別物なのでまた別途記事にします。
※フィンガーピックはカントリーギター、ソロギターで多用される。
3-4 補足:滑り止め付きピック
ピックの中には演奏中ずれてこないようにつまむ部分に滑り止めの加工がされたものがあります。
この滑り止めの有無は音とほとんど無関係なので、ピックが滑る時には使ってみるのも良いでしょう。
ただし、滑り止め無しだとピックがずれてしまう場合、ピッキングのやり方に改善の余地があるということだけお忘れなく。
ちなみに、分厚いピック(特に牛骨、木などで出来たピック)には、つまむ位置に大きく彫り込みがされている場合があります。
これは弾き心地と扱い方がもはや「普通のピック」では無い為、初心者の方は避けましょう。
4.ピックの厚さ
ピックには素材・種類ごとに様々な厚さのものがあります。
通常よく使われているのは0.4〜1.2mm程の厚みのもの。
ただし厚いものは2〜8mm、薄いものは0.2mmなど本当に幅広い厚さの商品があります。
今回は説明のためピックを厚さごとに
Thin :0.3〜0.6mm
Middle:0.6〜0.9mm
Heavy :0.9〜1.3mm
と分類して音の特徴を見てみましょう。
4-1 Thin(薄い)ピック
Thinピックは実音が弱めの煌びやかなアタック音が特徴。
アコギやカッティングフレーズがよく映えます。
また初心者の人でも扱いやすく比較的簡単に綺麗な音が出せるのも大きな魅力の1つ。
ただし太い音のソロやブリッジミュートの場合は迫力に欠ける演奏になってしまいます。
4-2 Middleピック
Middleピックは幅広い演奏性が特徴。
コード弾きやカッティングから、太い音の単音まで幅広くこなせるオールラウンダーです。
ただし良くも悪くも「ピック自体の特徴」には欠け、色んな曲を弾き分けるにはピックに頼らない表現力がかなり求められます。
初心者の方は、まずMiddleくらいの厚さのピックを持っていると色々な練習に取り組みやすく、おすすめ。
4-3 Heavy(厚い)ピック
Heavyピックは野太い実音が特徴。
ソロや重たい音のブリッジミュートでは非常にかっこいい音が出ます。
ただし、アタックのキラッとしたコード弾きには向かず、扱いも難しいです。
太く厚い音とは裏腹に、より繊細で「脱力」したピック捌きが求められます。
5.ピックの素材(材質)
ピックの素材は代表的なものから独自の配合で作られる特殊なものまで様々です。
今回は代表的な素材としてウルテム、樹脂(トーテックス)、プラスチック、ナイロン、金属、鼈甲(べっこう)のピックの特徴を紹介します。
5-1 ウルテム(ULTEM)ピック
ウルテムピックは「爪や鼈甲に最も近い素材」だと言われていて、素早い音の立ち上がりとナチュラルな響きが特徴。
素材としてはやや硬めで、表面はツルっとしたものもサラッとしたものもあります。
色は薄茶色の半透明。
音の印象は非常に「素直」であり、ピック自体の個性より演奏者やギターの個性が強く出せ、田村が1番好きな音のピックです。
メーカーはクレイトン(CLAYTON)という薄茶色に白い鷲のマークが描かれたピックが圧倒的に有名です。
その他島村楽器ブランドのHistoryなどもウルテム製になります。
またジムダンロップ(JIM DUNLOP)のウルテックス(ULTEX)も非常にウルテムに近い素材です。
5-2 樹脂(TORTEX・トーテックス)ピック
樹脂といってしまうと非常に幅が広くなってしまうので、ここでは亀のマークの描かれたジムダンロップ(JIM DUNLOP)のトーテックスと呼ばれる素材のピックについて。
トーテックスピックはウルテムより柔らかい素材で表面はややざらついた感触のピック。
(サラサラした手触り)
音の立ち上がりは柔らかく、音も暖かめ。
日本でかなり人気のピックですが、やや弦との摩擦が強いためどっしりした単音・コード向けでクリアな音のバッキングにはやや不向きな印象です。
5-3 プラスチック(セルロイド)ピック
これも簡単のためギブソン(Gibson)の作るピックに限定します。
ギブソンのピックはウルテムやトーテックスに比べると「パキッ」としたアタック音を出します。
音色としては粒立ちが強く少し硬め。
コードバッキング、単音共に安定して良い音ですが、ウルテムに比べるとやや硬く人工的な(スッキリした・冷たい)響き方をします。
※言葉の印象が良くないですが、例えであって悪い意味ではありません。
ギブソンの他には、フェルナンデス(FERNANDES)もセルロイド系ピックのオーソドックスなメーカーです。
5-4 ナイロンピック
ナイロンピックは非常に柔らかい素材で出来たピック。
トーテックス同様ナイロンピックもダンロップが作っているものが主流でしょう。
音の立ち上がりは柔らかく、しっかり太い音が出ます。
コードも単音も、音に柔らかいアタック音が意外と綺麗に乗ります。
初心者でも安定して良い音が出し易く、オススメです。
田村的にはウルテムの次に好きなピック。
5-5 金属ピック
アタック音の属性はギブソンピックに近く、やや硬いアタック音がします。
ただし、他のピックに比べてずば抜けて扱いが難しく、ピッキングノイズ(弦トピックが擦れて出るノイズ)が出やすく、悪目立ちしやすいです。
脱力などの基本がきちっと出来ていないと弦がよく切れたり耳障りな音になりがちな為、初心者には絶対にオススメできません。
しかし、海外ではコインをピックにしたプロのギタリスト(非常に実力者)もいるので、一部で密かに人気のあるピックです。
5-6 鼈甲(べっこう)ピック
鼈甲ピックは亀の甲羅から作られるピック。
音の立ち上がり、粒立ち、響き共に自然で非常に素晴らしいスペックのピックです。
ただし、値段が高く、安いものでも1枚1000円はする高級ピック。
田村は過去数枚、鼈甲ピックを購入しましたが、予算面の問題で今はウルテムピックに落ち着いています。
6.ピックの選び方
さて、いよいよピックの選び方です。
本当は全部の種類のピックで試してみるのが1番なんですが、それはゆっくり時間をかけてやれば良いことなので、今はひとまず出したい音のイメージや状況を元に1からピックを選んでいきましょう。
6-1 ピックの種類を大きく分ける
ここまで色々書きましたが、正直ピックの素材説明が多すぎて既にお腹いっぱいという人もいると思います。
そこでまずはピックを簡単に3つの要素で分けて考えます。
・ピックの形について、ティアドロップなのかトライアングルなのか。
・ピックの材質・素材について、硬いのか柔らかいのか。
・ピックの厚さについて、厚いのか薄いのか。
そして後はこの3つの質問に答えるだけで自分の欲しいピックが絞れます。
6-2 ティアドロップとトライアングル
この2つの選び方は実は簡単で、
「こだわりがあるならティアドロップ、なければトライアングル」
をおすすめしておきます。
特に初心者の頃はトライアングルの方が何かと便利かなと思います。
田村は初めから理由もなくティアドロップを選びましたが、演奏の汎用性や使い勝手はトライアングルピックが上です。
特に通常曲の大部分を占めるコードバッキングの出音・音抜けにおいてもトライアングルは有利なので、まずはトライアングルを選び、後々ティアドロップを試しても十分です。
ただし、最終的に絶対両方試しましょう。
(出来れば早めに)
6-3 硬いピックと柔らかいピック
ピックの硬さは音の野太さを決めます。
少々極端すぎる言い方ですが、そう仮定してみましょう。
柔らかいピックは低く太い輪郭の力強い音。
硬いピックはスッと前に出る高く太い倍音豊かな音。
例えばハードロックのようにどっしりとした音が出したいのなら柔らかいピックを選び、アコギのバッキングやグッと前に抜けてくるロックが演奏したいなら硬いピックを選ぶといったイメージです。
ちなみに、素材や材質は多すぎると選べないので、
硬いピック=ギブソン、クレイトン
柔らかいピック=ナイロン
としておきます。
この3種はどれも確かな音の個性(長所)を持ったおすすめ出来るピックです。
6-4 厚いピックと薄いピック
ピックの厚さはアタック音の大きさと輝きを決めます。
これも先ほどと同じく大げさですが、そう仮定します。
厚いピックは実音メインでアタック音は薄めの音。
薄いピックはアタックが煌びやかで心地よく実音が薄めの音。
例えば、単音フレーズやソロの多いロック曲なら厚いピック、コードがメインのアコギやキラッとしたカッティングなら薄いピックを選ぶイメージです。
6-5 好きなアーティストを真似る
自分の憧れのアーティストが使っているピックが分かっていれば、それを真似するのも良いでしょう。
音の目標も立ちやすくておすすめです。
ただ、使っているピックがわからなかったり、ばらばらだったりする場合も多いので参考までに。
7.田村おすすめピック
実は先ほどの選び方がほとんど田村のおすすめそのものなんですが、いくつか具体的なおすすめを書いておきます。
※以下出てくる「クレイトン」のピックはウルテム製。
7-1 ピッキング練習用
クレイトン:0.7〜0.8mm
タイプはティアドロップでもトライアングルでもお好きな方を。
アコギ、エレキを問わず、ピックの種類に左右されない幅広い表現練習に向いています。
言うなれば「標準的」なピック。
このピックでソロもコードも両方を綺麗に弾くことを目指してみましょう。
7-2 アコギライブのピック
コードのみ
クレイトン:トライアングルピック(0.4〜0.6mm)
ソロ有り
クレイトン:トライアングルピック(0.6〜0.8mm)
7-3 エレキライブのピック
ほとんどの曲
クレイトン:ティアドロップ(0.7〜1.0mm)
装飾的なカッティングの曲
クレイトン:ティアドロップ(0.4〜0.6mm)
ギターが重く少し後ろで鳴っている曲
ナイロン:ティアドロップ
後は実際のフレーズやエフェクター、アンプと相談しながらピックと厚さ形を選びます。
音の特徴で言えば、素材はクレイトン(ウルテム)とナイロンのピックだけで大抵の演奏を表現できますよ。
まとめ:硬いピックは万能で上手くなる?
ピックはほんの100円や200円で買えてしまうものですが、ギター演奏には欠かせない、本当に大切な道具です。
ピッキング練習でどうしてもうまく出来なかった表現が、ピックを変えればあっさり出来てしまうなんてこともよくあります。
たかがピック、されどピックです。
さて、冒頭でも触れましたが、ピック界では
「硬いピックは万能で、上達が早い」
と言われています。
それは何故かというと、指先と手首・腕の技術がもろに出るから。
柔らかいピックは多少無理な振り方をしても、ピックがしなって変形することである程度いい音を奏でてくれます。
しかし、硬いピックは自分の手首と指先でピックを柔軟に捌けなければ、すぐ硬く荒い音になってしまうんです。
自分の指先の力加減やピックを持つ角度が、そのまま弦に伝わり、音として出てくる。
そしてまるでピックがしなっているかのように緩くピックを脱力できれば、不思議と柔らかい表現も出来る。
確かに、これでいい音が出せたのなら、柔らかいピックは難なく使いこなせるでしょう。
そういう目で見れば、硬いピックが素晴らしく見えてしまいますが、これを信じすぎたらダメなんです。
「一枚のピックでも腕がよければ何でも出来るはず」
ここまで思考が凝り固まってしまうと、ギターをやる上で非常にもったいない。
冒頭にも書きましたが、一枚のピックで様々な表現が出来ることと、一枚のピックだけを盲信することは違います。
結局どのピックを選ぼうとも、良い音を出すためにはものすごく沢山の練習が必要です。
そんな時に、いくつかのピックの違いや音を知っていると言うのは、必ずピッキングの感覚をつかむ助けとなるでしょう。
皆さんには色んな種類のピックの個性を知った上で、一枚のピックでも多彩な音が出せるような、そんなギタリストになってもらえれば嬉しいです。