音楽活動をしていると様々な形で「自分の演奏を発表したい」と思うことがあるかと思いますが、中でもオリジナル曲ではない場合にネックになってくるのが「著作権」です。
最近ではネット上のモラルが低下して、「他人の作品をあたかも自分のものであるかのように発表する」人が増えています。
そしてそれがまかり通ってしまっている、原作者が泣きを見ているのが現状です。
特にTwitter、YouTubeといった大きなサイトでは、マナー、ルール違反の方が急増している一方で、その対策は余りにも遅れているように見えます。
しかし、「じゃあどこまではOKなのか、セーフなのか」という点については非常に情報が少ないのも事実です。
そこで今回は、発信者の1人として守るべき著作権やそれに関するマナー、作品の扱いについて見ていきましょう。
※これは2年前に田村自身が著作権の無知に困り、企業への問い合わせ、本、知人、ネットなどを通じて素人の域から調べた内容です。
なので、この記事はあくまでも著作権の「イメージ」をつかむためのものだと思ってお読み下さい。
1.著作権とは
著作権とは、皆さん知っての通り「著作者」の権利であり、法律によって守られている権利の1つ。
著作権は、制作物であれば全てに存在すると言えるくらい範囲が広く、文章、写真、音楽、イラスト、他にも様々な「作品」に対して自然に発生する権利です。
当然のことながら、作品に対する著作権は全て作者のみが持っています。
(例外もありますが後ほど紹介します。)
さらに著作権侵害については「親告罪」という耳慣れないルールが適応されます。
1-1 著作権で守られるもの
著作権の目的は、作者の利益を保証すること。
例えばですが、自分が一生懸命作った歌を、勝手に酷い内容の替え歌にされたら良い気はしませんよね?
自分の撮った写真が勝手にダウンロードされて、更には勝手に複製・販売なんてされてたら嫌ですよね?
平和的な意味を込めて書いたイラストが、攻撃的なポスターに無断で使われていたらどうでしょうか?
つまり、著作権はこう言った作者の意に沿わないような勝手な作品の変更、利益の横取り、許可のない作品の使用、といった行為から作者を守る役割を果たします。
1-2 著作権でやってはいけないこと
先ほどの例から分かるように、厳密に言えば「許可のない作品の使用」はアレンジ・転載・転売などの形は問わず、全て法律違反になります。
ただし、実際に本当にそこまで徹底しなければならないのかと問われれば疑問です。
例えば、これはよく音楽における著作権で議論になるテーマとして、
「人前で、許可なくアーティストの鼻歌を歌えば違法になるか」
というものがあります。
皆さんはどう思いますか?
その答えはYesでありNoであると思っています。
以下一文、非常に語弊のある記載をしますので決して早まった解釈はしないで下さい。
本当に気を付けるべきなのは「作者に対する誠意を示すこと」ではないでしょうか。
その意味と範囲については、これからもっと具体的に考えていきましょう。
1-3 著作権と親告罪
著作権の「親告罪」とは、「著作権の権利者のみが権利の侵害を訴えることが出来る」というもの。
なので、例え好きなイラストレーターの絵が無断で使用されていて腹が立っても、ただのファンであるあなたは法や制度に訴えることができません。
つまり著作者本人が気にしなければ罪には問われないということです。
この親告罪という制度が、良くも悪くも多くのグレーゾーンを生んでいます。
1-4 著作権の委託、譲渡、販売
さて、最初に「著作権は全て作者に属する」とは言ったものの、これは作者の意思で委託、譲渡することも出来ます。
例えば、依頼されて文章を書くライターさんや、希望されたイメージの写真を撮るカメラマンさんのことを考えてみましょう。
本来であれば、彼らが編集者や依頼者に「納品」した文章や写真の著作権は作成者のライター、カメラマンが持っているべきものですよね。
しかし、注文して作ってもらった文章や写真を自由に編集したり販売したり出来ないとなると、依頼した側は非常に扱いにくくなってしまいます。
そこで一般的には、作品を納品する場合は著作権も含めて「丸ごと売る」場合が多いでしょう。
こういった場合に発生するのが「著作権料」です。
つまり著作権(知的財産)を他者に渡したり、使用を許可する対価として受け取るお金のこと。
このように著作権はそれ自体が「もの」であるかのように渡したり受け取ったり出来るわけです。
2.JASRAC(ジャスラック)と著作権
JASRACは、日本の音楽業界における著作権料の徴収を、アーティストに変わって行っている大きな団体のこと。
最近では様々な面で「やりすぎだ」と批判されていることが多いですが、その反面アーティストにとってなくてはならない仕組みをもった団体であることも事実です。
2-1 JASRACの役割
世間ではJASRACは不要だなんて言う大それた声もあるので、まずは本来JASRACが存在する意味を見ていきましょう。
まず、JASRACは音楽に関する権利全般をアーティストから「預かって」代わりに運用してくれる団体です。
例えば、JASRACの管理する楽曲を「音楽として使用」「譜面に起こして出版」「演奏」「録音」したいと思った場合に、わざわざ元のアーティストに連絡することなく、JASRACが許可を出せるというわけです。
そして、それらを「誰が」「何に使うのか」に応じて適切に著作権料を徴収して、利益を権利者のアーティストに配分するのが彼らの役割です。
考えても見て下さい。
もしJASRACが無ければ日本のトップアーティストの元には、一体1日にどれだけの問い合わせが殺到するでしょうか。
「今度、市のコンサートであなたの楽曲を演奏してもいいですか?」
「私のお店でCDを流してもいいですか?」
「バンドで曲をコピーして演奏しても良いでしょうか?」
大きな商談ならともかく、全てに対応することなんてとても出来ないでしょう。
※JASRACに委託されている権利の内容はアーティストによって異なります。
2-2 JASRACと編曲権
JASRACは実は「編曲権」と呼ばれる著作権については管理していません。
要するに編曲=アレンジについての権利だけは、アーティスト本人だけが持っている形になります。
これについては次で詳しく触れることにしましょう。
3.カバー曲と編曲権
さて、いよいよ本題とも言える楽曲のカバーについてです。
実は音楽のカバーをする上で著作権がこんなにもうるさく言われるのは、実際に無断でカバーアレンジされた原作者が、裁判を起こしたことがあるからです。
そして結果、そのカバー曲を含むCDが販売中止になりました。
先ほども言ったように、アレンジに関する編曲権はJASRACが管理できないため、厳密に言うと作曲者(もしくは代理の会社)に直接許可を取る必要があります。
3-1 どこまでのアレンジはOKか
これはもう本当に作曲者の感覚次第です。
例えば、クラシック曲を最近の電子音楽的にアレンジされた場合に
「ジャンルが違って、これも面白い」
と感じる作曲者もいれば、
「こんなカバーは良くない。もっと原曲を尊重してほしい」
と思う作曲者もいるわけです。
私個人は、カバーは各々が好きなだけ、自由にやればいいという意見の持ち主です。
ただし、やるからには、自分なりの表現・視点でもいいので、最大限原曲の良さを引き出せるものでないといけないと思っています。
想像して見て下さい、自分の楽曲を本当に好いてくれる人が、心を込めてしたアレンジに対して「迷惑だ・やめて欲しい・全て許可を取ってくれ」と思うアーティストがどこに居るでしょうか?
もちろんこれは私の偏見ではありますが、音楽の可能性を広げるためにも、誰もがカバーに対して寛容であれば良いなと思います。
ただし、悲しいことにカバーする側のモラルが低く、作曲者を怒らせていることも否めません。
曲のカバーと「利用」は違うんだということだけは、心にとめておいて下さい。
3-2 カバーと収益
さて、いくらカバーは推奨するとはいえ、金銭的な収益をあげる場合は気をつけたほうが良いでしょう。
これは、アレンジして良いかどうかとはまた少し違う問題です。
何故なら、アーティストの方はその楽曲を糧にして生活しているから。
形はどうあれ、彼らの「仕事の成果」である曲を借りて、「お金を稼がせてもらう」のであればその一部は必ず、絶対に還元すべきです。
これも逆の立場で考えれば分かりますが、汗水垂らして有名になった曲を勝手に使って、美味しいとこどりでどんどん稼がれたら良い気はしないですよね?
場合によっては、儲け主義で私の曲をカバーするな!ということにもなりかねません。
幸い、この還元の方法は日本においては自動化されているものもあるので、しっかりとその方法を学んでから事に当たりましょう。
いくつかについては後ほど紹介します。
3-3 カバーの表記
おそらく著作権を気にしてこの記事を読んで下さっている程の方は大丈夫だと思いますが、カバー元の表記をしない人が本当に多いです。
また、カバーどころでは無く、オリジナルに一切触れずに堂々と転載している方もよく見かけます。
これはもはや窃盗です。
私はこの表記こそ、ある意味著作権で1番大切な事じゃないかと思うんですが、
「オリジナルが誰のもので、自分はどういう立場でアレンジや転載をしているのか」
これだけはしっかりと分かるようにしましょう。
※転載については仮に原作者を宣伝するためであっても、必ず許可を取ること。
4.YouTubeとカバー・弾いてみた
さて、今やプロの音楽家でもたくさんの人が利用するYouTube。
アマチュアの人の動画でも、カバー曲や弾いてみたなど本当にたくさんの動画があります。
ではYouTubeにおける著作権の仕組みはどうなっているのでしょう。
順番に見ていきます。
4-1 YouTubeとJASRACの包括契約
これは動画投稿者の代わりに、YouTubeが著作権料をJASRACに収めてくれるという仕組み。
今や莫大な数の動画に音楽が使われているのを皆さんもご存知だと思います。
そんな中、わざわざ個人単位で著作権料を支払い始めると非常に効率が悪く、JASRACの管理も到底追いつきません。
なのでこれらの点を解消するためにYouTubeとJASRACの間で結ばれたのがこの包括契約です。
これがある限り、私たちは著作権料を気にせずに動画に楽曲を使用できるわけです。
※原曲は使用出来ません。
※包括契約の無い団体が管理する楽曲は使用許可の手続きを取るべき。
4-2 「弾いてみた」に原曲は使えない
一見、JASRACとの包括契約があればYouTubeで原曲を使用出来そうに思えますが、これは使用禁止です。
何故なら、楽曲をBGMとしてそのまま使用するというのは契約内容に含まれていないから。
使用が許されるのはあくまでも自身での演奏や録音などになります。
そしてYouTubeには登録された楽曲の無断使用を防ぐための優秀な自動システムも存在します。
あの手この手でこれをかいくぐる人もいるようですが、原曲の使用はやめておきましょう。
歌ってみたの場合なら、無料のカラオケ音源を探す、弾き語りをする。
弾いてみたなら打ち込みで伴奏を付けるなど、何か工夫をしましょう。
4-3 YouTubeとカバーアレンジ
先程から書いている通りで、JASRACには編曲権がありません。
従って、なるべく忠実な原曲の再現以外は厳密には編曲許可が必要になります。
編曲権の項目で書いた通り、よほど悪意のあるアレンジでなければ大丈夫だとは思いますが、無許可の場合は、権利者に作品を削除されても仕方ない立場であるということは覚えておきましょう。
※削除される覚悟があれば、転載等何をしても良いというわけではありません。
5.カバー曲のCD化
これについては、編曲権についてもきちんと許可を取っていた方がいいでしょう。
とういうのも、CDの場合、販売方法を広げるためにはJASRACへの登録が必要です。
(逆にCDの権利を守ってもらうため)
そこで発行されたJASRACのコードシールが貼っていないと一般的な「音楽CD」としての販売は難しいかと思います。
編曲権は音楽著作権の中でも最大の「グレーゾーン」ですが、こういった正統な販売手続きを挟む場合は、「ホワイト」な状態でないといけません。
というより、そもそもJASRACへの登録自体が、その楽曲の権利が全て正しく運用されているという証明を意味します。
※私は1例しか知りませんが、過去に裁判沙汰になったのもCDアルバムでの編曲権についてでした。
また、楽曲使用に関する定められた著作権料をJASRACを通じて支払う必要があります。
6.カバー曲のAmazon・iTunes販売
今や仲介業者を通せば、個人でもAmazon、iTunesなどの大手デジタルミュージックストアで楽曲を販売できます。
これについてもCDの時と同様楽曲の権利をきちんと所持しているかどうかの確認がなされますので、編曲権含む全ての許可を取りましょう。
記憶上iTunesの国内販売の場合、著作権料は自動的に権利者に支払われますが、その他のケースは定かではないので、販売国、販売会社毎に調べる必要があります。
確実なのは全てのケースにおいて著作権料を自分で支払うこと。
これはケースバイケースで対応してください。
7.洋楽の著作権
JASRAC管轄の曲については紹介しましたが、果たして洋楽をカバーしたい時にはどうすればいいんでしょうか。
まさか海外の著作権団体と英語で交渉、更には振り込み手続きをする、、?
昔こんな風に考えて真っ青になっていたんですが、これはほとんどの場合は心配無用です。
というのも、各国の大きな著作権団体は意外と自国以外の曲も扱っているからです。
試しに、ある程度有名な洋楽をJASRACのデータバンクで検索してみてください。
大抵の曲なら日本の楽曲と代わりない権利が、JASRACに委託されているはずです。
ただし、データバンクに乗っていない洋楽、即ちJASRAC管轄外の曲は自力で海外から許可を取って来る必要があり、難易度が跳ね上がりますので、英語に自信がない場合は選曲も大切です。
まとめ
一見非常に複雑な著作権ですが、求められるものはただごく当たり前のマナーです。
誰かの作品を借りて何かをする時には、その作者の作品が本当に素晴らしいんだということを世間に広めるくらいの気持ちを持ってやりましょう。
もちろん、その作品が自分のものであるかのように振舞ったり、利益を横取りするのは論外のことです。
そして文中にも少し書きましたが、私自身は音楽のカバーはどんどんすればいいと思っています。
音楽は真似して、アレンジして、そんな中で技術を盗み、発見し、発展していくものだと思うので。
田村も音楽と文章に携わる者の端くれとして、カバーされる人が素直に嬉しいと思えるような最低限の常識が世間に広まることを祈ります。