コーティング弦を探していると、必ず耳にする「エリクサー」という弦ですが、皆さんはエリクサーが一体どんな弦なのかご存知ですか?
エリクサー(Elixir)シリーズの弦は、とくにギターのコーティング弦では圧倒的な知名度と評価を受けています。
しかし通常の弦より値段が高いことと「音が良くない、もこもこする」「結局は錆びる」などの噂もあって、なかなか手を出しにくいという方も多いですよね。
またエリクサーは最近、従来のポリウェブ(Polyweb)、ナノウェブ(Nanoweb)シリーズに加えて、新しいオプティウェブ(Optiweb)という弦を発売し、一部のギタリストの間でも話題になっています。
そこで今回は、エリクサーとは一体どんな弦なのか、特徴や寿命から各シリーズの違いまで、ここ2年ほどエリクサーを愛用している田村がその魅力とデメリットについて徹底解説していきます。
1.エリクサー(Elixir)弦とは
エリクサー弦とはGORE社の発売した世界初のコーティング弦のこと。
弦の表面に薄いコーティングをすることで、錆びに強く、長寿命な弦を作っています。
エリクサーの弦はコーティング弦の中ではアコギ用、エレキギター用、ベース用を問わず質が高く、評判も良いです。
そして恐らく、皆さんが思うところの「コーティング弦」を扱える唯一のメーカーとも言えるでしょう。
「そもそもコーティング弦ってなんだ?他にどんなメーカーがあるの?」という方は「コーティング弦の仕組みと寿命 |錆びない弦の比較とおすすめ」という記事も合わせてどうぞ。
1-1 エリクサーの弦は何故長持ちするの?
エリクサーが通常の弦より長持ちするのは、弦が劣化する2つの原因をコーティングによって取り除いたから。
それは、「汚れと錆び」です。
とくに、ギターを弾くたびに巻き弦の隙間に溜まっていく汚れは、急速に弦の倍音と響きを低下させてしまいます。
(巻き線・コイル線の振動を邪魔してしまうため)
エリクサーの弦は巻き弦をぴったりとしたコーティングの膜が包んでいて、汚れや錆びの原因である水分と塩分が完全にシャットアウトされています。
このおかげでエリクサーは非常に錆びに強く、長寿命な弦を実現しているんですね。
1-2 エリクサーと他コーティング弦を比較した違いは?
昔はコーティング弦と言えばエリクサー弦しか見当たらなかったんですが、最近ではマーチン、ダダリオ、アーニーボール、ヤマハなど様々なメーカーが「コーティング弦」を発売しています。
しかし、実は多くの方がイメージする「弦の周りを隙間なく覆うようなコーティング」をした弦はエリクサーだけなんです。
と言うのも、「弦の周りを丸ごとコーティングする」という技術はエリクサーが発案者で、技術的な特許を持っているから。
つまり、他のメーカーがコーティング弦を作る場合は、巻き弦の「巻き線・コイル線のみをコーティングする」などの限定的な製法を取らざるを得ないということ。
美しい倍音や、錆びのない状態をより長持ちさせる上で、これはエリクサー弦だけの大きなアドバンテージだと言えるでしょう。
※コーティングの代わりに弦表面を金属メッキした「マーチンライフスパン」という面白い弦を見つけたので「マーチンライフスパン(Martin Lifespan)の特徴と耐久性」という記事で紹介しておきますね。
1-3 エリクサー弦の評価と評判
エリクサーの弦はアコギ、エレキギター、ベース共に非常にコーティング弦としての評価が高い弦です。
田村自身も良い弦を求めていくつかのメーカーのギターコーティング弦を試しましたが、
・錆びにくさ
・倍音の持ち
・音の良さ(シリーズによる)
・総合的な弦の寿命
において、間違いなくトップクラスだと言えます。
また最近では音質などについての悪い噂も減って使っている人が増え、どんどん評価が高くなってきているように感じます。
2.エリクサー弦の種類と音の違い
エリクサーはずっとポリウェブとナノウェブの2種類でしたが、最近ここに新商品のオプティウェブが加わって3種類になりました。
ここではこの3種類は一体何が違うのかを見ていきましょう。
※当然ですが各シリーズに色々なゲージが有り、アコギでは更にブロンズ・フォスファーの2種類が有ります。
アコギのブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦の違いについて気になる方は「ブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦の違いとは」という記事も合わせてどうぞ。
2-1 エリクサーポリウェブ(polyweb)の特徴
エリクサーポリウェブ(Elixir-Polyweb)は比較的厚めのコーティングが施された種類の弦。
エリクサー公式は「ポリウェブは落ち着いた上品な音色」であるとしています。
ポリウェブの弦を弾いた感触は、通常の弦とは全く別のもので、
・非常にヌルヌルした手触り
・角の取れた音
が特徴です。
ポリウェブの欠点は、がっしりとしたコーティングのためにギター弦、ベース弦本来の響きが大きく失われてしまうこと。
なので、フィンガーノイズや明るい輝きを持ったサウンドが好みの場合はあまりおすすめ出来ません。
田村自身もエリクサーポリウェブ弦はあまり使いたくないなというのが正直な感想です。
楽器屋さんでも最近は扱いが減ってきているように感じます。
2-2 エリクサーナノウェブ(nanoweb)の特徴
エリクサーナノウェブ(Elixir-Nanoweb)は「ナノ」という名前の通り、非常に薄いコーティングが施された種類の弦。
エリクサー公式では「ナノウェブは迫力のあるブライトな音色」だと表現されています。
このナノウェブは恐らく現状エリクサーで1番人気の弦で、田村がアコギで使用しているのもこのシリーズの弦です。
音としては「かなり普通の弦に近い」音がします。
張替えたてで比較した場合、通常の弦に比べるとフィンガーノイズやコイル感(巻き弦特有の響き)が控えめな部分はありますが、ナノウェブに関しては普通の弦の音としても「良い音」だと言えるでしょう。
弦の手触りは、通常の弦よりやや滑りやすい(抵抗が少ない)印象。
独特の手触りが苦手だという人も見かけますが、エリクサーナノウェブは田村おすすめのコーティング弦です。
2-3 エリクサーオプティウェブ(optiweb)の特徴
新しい商品であるエリクサーオプティウェブ(Elixir-Optiweb)は、ナノウェブよりも更に薄いコーティングが施された種類の弦。
オプティウェブはエリクサーが「ナノウェブよりさらに本物(通常の弦)のような演奏性と音」をコンセプトに開発した弦です。
※現在はエレキギター用のみ販売
弾いた感想としては確かに、ナノウェブと比べればやや通常弦らしい響きと、手触りだと言えるでしょう。
ただし、ポリウェブとナノウェブの間には非常に大きく分かりやすい音の違いがあったのに対して、ナノウェブとオプティウェブの間の差はあまり大きくはありません。
楽器屋店員の知人も、オプティウェブは手触りはともかく、「音は思ったよりナノウェブに似ている」との意見でした。
現状ナノウェブと比べて少し高い値段設定であることも踏まえて、ナノウェブに続くヒット商品になれるかどうかはまだまだ微妙なところです。
田村はエレキギターの弦はしばらく試しにオプティウェブを使っていますが、今のところナノウェブとどちらでも良いかなという印象です。
3.エリクサー弦のアンチラストとは
さて、コーティング弦を使い始めた頃の田村にとって大きな衝撃だったのは、コーティング弦のプレーン弦には「コーティングがされていない」ということ。
※プレーン弦とはアコギなら1弦2弦、エレキギターなら1〜3弦のことで、巻き弦ではない弦のことです。
これはエリクサーに限らず、知る限り全てのコーティング弦がそうなんですが、主にアコギの1弦2弦の錆び対策としてコーティング弦を考えていた田村にとってこれは大問題でした。
そこで出てくるのがエリクサーの「アンチラスト」と呼ばれる技術です。
3-1 アンチラスト(Anti-Rust)とは
「アンチラスト」とはエリクサーがギタープレーン弦に使用する耐腐食加工技術のこと。
詳しい仕組みまでは公表されていませんが、簡単にいうとコーティングではなく金属の成分配合を変えることで錆びにくくしているようです。
(錆びにくいステンレスのようなイメージ)
3-2 アンチラスト弦は錆びる?錆びない?
結論から言って、エリクサーの「アンチラスト」加工弦は非常に優秀だと言えます。
例えば、夏場なら最短1時間ほどで弦に赤錆びを出したことがある田村でも、1週間くらいは錆びの気配すら感じないほど。
「大したことないじゃん」と思われるかもしれませんが、プレーン弦には何の加工もされていないコーティング弦も多い中で、これはすごいことなんです。
また、アンチラスト弦はコーティングされた巻弦と大体同じくらいの遅さで錆びが進行するので、「実質コーティング弦」だとみなしても良いレベルで錆びに強いです。
すぐに弦が錆びてしまうという人には救世主的な弦だと言えるでしょう。
4.エリクサーの寿命と弦交換の時期
弦の寿命は、練習量や季節、使う人の基準によってかなり変わるもの。
色々な状況が考えられますが、弦にとってかなり過酷な環境(夏・汗だく・長時間練習など)でも1ヶ月前後、良い環境であれば半年~1年は錆びや音色の劣化を気にせずに使えるかと思います。
エリクサーの寿命について詳しくはエリクサーの弦はどれくらい長持ち? |寿命と10ヶ月後の音という記事にまとめてありますので良ければ併せてご覧ください。
5.エリクサー弦の音
さて、田村がギタリストとしてもう一点気になるのが「音」です。
いくら長持ちする弦でも、元々の音があまりに悪ければどうしようもありませんよね。
5-1 エリクサーの音はこもる?モコモコする?
エリクサーの弦について、「音がこもる・モコモコする」といった噂を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
実はエリクサー(他のコーティング弦全般も同じ)の音の大きな特徴として、「コイル感が少ない」というデメリットが挙げられます。
巻き弦のコイル部分を膜で覆ってしまうので当然といえば当然なんですが、張り替えたての弦特有の美しいコイル音が少ないのは確かに少し寂しいですよね。
これが原因で「エリクサーの弦の音は嫌いだ」という方も少なくありません。
ただ、コイル感は通常弦でも張り替えて1週間ほどで大きく減衰してしまうものなので、好みや状況に合わせてどちらを選ぶかです。
こればかりは好みの問題なので、田村からのアドバイスはほとんど出来ません。
次に、エリクサー弦を張ったばかりのギターの音は少しヌルッとしていること。
「こもる」と言う表現が的確かどうかは分かりませんが、張り替えたてのエリクサー弦は、音の輪郭部分がややぼやけたような、少し丸い印象の音が出ます。
しかし、この音の丸みは数日経つと程よく抜けて明るい音が出てくるので、これについてはあまり心配いりません。
ポリウェブは怪しいですが、少なくともナノウェブ、オプティウェブの弦に関しては音のモコモコが悩みの種になることは少ないでしょう。
5-2 エリクサーの倍音
エリクサーの倍音は通常の弦よりも多少高音成分が少ない傾向にありますが、バランス自体は良く綺麗です。
また通常の弦は張り替えて1週間もたてば高音成分の倍音がみるみる減衰していくのに対して、エリクサーの倍音はあまり減衰することなく、綺麗でバランスのいい状態が長持ちします。
田村はエリクサーのこの一点に惚れ込んで、エリクサーの使用を決めたといっても良いでしょう。
ピッキングの練習をするときに、長期間つかってもさまざまな音色を綺麗に出せる弦というのは、本当になかなか無いんです。
倍音を意識したピッキングを練習中の方にはぜひおすすめしたい、試してほしい弦です。
6.エリクサー弦の毛羽立ち
錆び、寿命共に一見無敵のエリクサーですが、実は数週間も使い込むとピックなどでコーティングが傷んで少し「毛羽立って」きます。
これは初めてエリクサーを使う人は少し驚くかもしれませんね。
本来であれば、この毛羽立ちは錆びと同様に弦の滑りとチューニングに影響するはずですが、エリクサーのコーティングは非常に軽いため、チューニングの影響は無視できるレベルです。
(というよりもまず絶対に気付けません)
また手触りもよほど意識して触らなければ分からない程度の変化で、錆びによる手触りの悪化とは比べ物になりません。
ピッキング、アタック音、擦れ音の変化もほぼないと言っていいでしょう。
つまりこの毛羽立ちは少々見栄えこそ悪いものの、演奏への実質的な影響は皆無です。
7.エリクサーはTaylor(テイラー)の標準弦
アコギ界で、「マーチン」「ギブソン」「テイラー」と言えば、非常に名高いギターメーカーですが、そのうちの1つであるテイラーは現在エリクサーの弦を「工場出荷時の標準弦」として採用しています。
つまり、新品のテイラーアコギには全てエリクサーが張られているということ。
テイラー社長のボブ・テイラーはエリクサーの弦について「非常に優秀であり、優秀なものは当然選ばれる」という旨の話をしています。
またボブは「エリクサーは楽器屋さんに出して7ヶ月経ったって良い音がするんだ」とも言っていました。
ギターメーカーにとって、様々な人が試奏しにくる楽器屋さんで良い音をキープ出来るというのは、「自社ギターの印象」に関わるとても大切なことだと思います。
もちろん、これは弦を選ぶ上でほんの小さな情報にしかなりませんが、大手ギターメーカーが標準弦としてエリクサーを採用しているというのは1つの信頼にもなるでしょう。
※テイラーの他にもエレキギターメーカーである「トムアンダーソン」、ベースで名高いヘッドウェイの「バッカス」などもエリクサーの弦を標準採用しています。
まとめ(エリクサーのメリットとデメリット)
さて、今回はエリクサーが一体どんな弦なのかについてのご紹介でした。
最後にここまで出てきたエリクサーの情報をメリット・デメリットの形で通常弦と比較してみましょう。
エリクサーのメリット
・圧倒的に錆に強い
・倍音が豊かで長持ち
エリクサーのデメリット
・値段が高い
・張り替えたての音の煌びやかさが少ない
色々と説明してきましたが、エリクサーの弦は練習用として最高の弦だと思っていますし、田村からすればライブ使用にも十分応えてくれる音質の弦です。
やはりギターを気持ちよく演奏・練習する上で、倍音の存在は欠かせないもので、その耐久力でエリクサーの右に出る弦は今のところは無いでしょう。
そしてエリクサーの弦は錆びへの耐久力も非常に高いです。
手汗もかく上に、まだまだ右手も練習中の田村は、今後も良きパートナーとしてエリクサーの弦を使わせていただくつもりです。
リピーターになるかどうかはともかく、もし昔の田村のように「食わず嫌い」でなんとなくエリクサーを避けている方がいるならば、一度でいいのでぜひ試してみて下さいね。